4-4:彼女への伝達方法は[ 3/10 ]
ぐいっとおそらく玲のチャームポイントである髪の毛を引っ張る。
玲は「痛い、痛い」といって手をぱっと離した。
「ったく、凶暴だなお前は!!」
「時間、間に合わなくなるから起こしに来てあげたのに! 玲の馬鹿っ!」
「はいはい、ありがとさん……」
少し呆れたような顔をして、玲は着替えを始める。
「人がいる時に着替え始めないでよ!」
近くに落ちてたクッションをぶつけて私は玲の部屋を出た。
ふぅ、と息を吐いて裕太の部屋に向かう。
床にごっつんこする前に起こしてあげなきゃね……
相変わらず鍵を掛けない裕太。
全員折角ついてる鍵を活用しようね……
部屋に入るとすぅすぅと寝息をたてて寝ていた。
良かった、落ちてなくて。
起こそうとして近付く。
その時、静かな部屋にただ裕太の小さな声が響いた。
「……お母さん」、と。
起きてるのかと思って、顔を覗き込むと起きてはいない。寝言だったようだ。
そして、裕太の目に涙が少し溜まっていた。
ただ単にホームシック……というわけではなさそうだ。
「……裕太?」
心配になって裕太を起こそうとぺちぺちと顔を叩く。
「……ん……うわっ!? ……あ、あぁ……華ちゃ、おはよ……っ!」
顔が近いことに驚いたのか裕太は慌てて離れた。
ごめんね、と謝ると裕太は慌てて俯いて、首を横に大きく振った。大丈夫だと言いたいようだ。
「時間もう少しだから、ね?」
「ありがとう……うん」
裕太は少し元気がないようで。
嫌な夢でも見たのかな……さっきの寝言も関係してるのかな……?
下手に首を突っ込んではいけないような気がしたから、私は裕太の部屋を出てリビングに向かった。
――ソファに座って考える。
……玲は、雨の日に鬱になる。
私が初めて学校に行った日もだし、それ以降も雨が降ると部屋で具合が悪そうに寝込んでいることが多かった。
賢ちゃんは、ずっと植物状態である彼女のことでずっと苦しみ続けている。
裕太は、気にしすぎかも知れない……けど、さっきの寝言と、涙が何かありそうだ。
智くんは一見普通だけど、クラスの人……私と寮のみんなでさえ何処か一線を引いている……近いようで、遠い。
この寮の人は……何か、特別な、人?
過去に、何かあった人たちなのかもしれない。
それはきっと、偶然なだけなのかもしれないけれど。