3-5:全てが幸せな結末じゃない[ 4/9 ]



 本に視線を向けたまま、玲が言う。
 もう、クライマックスまで行ったんだ、早いな。
 いつ読み始めたんだろう。



「映画では主人公すごい泣いてたけど。あ、なんだっけ……最後の遊里の言葉。紫苑の花言葉……えっと、」




「“君を忘れない”」




 私の言葉に返事を返したのは智くんでも玲でもなく、賢ちゃんだった。


「あ、そうそう! 賢ちゃんも読んだんだね」
「まぁ、ね」



 裕太は「仲間はずれ」といっていじける。
 裕太、小説読みなよ。智くんも持ってるみたいだし、借りなよ……



「遊里はさ、最後植物状態のままだったけど……きっとハッピーエンドだよね!」



 恋愛小説の定番はハッピーエンドでしょう?

 その私の言葉に、嘲笑を漏らした男がいた。
 玲だ。



「……華。世の中はすべてが幸せに終わるわけじゃねーんだぜ?」



 馬鹿にしたように玲が本をパタリと閉じる。
 読み終わるの早いな。


 ……そうだよ。
 全部が幸せに終わるなんてこと、あるわけない。
 そんなことがあるなら、私は……私の家族、は。
 ばらばらになんか、なることがなかったんだから。



「ハッピーエンドだよ! 玲っていーっつも捻くれた考えだよね! ねっ、賢ちゃん!」




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