3-4:愛しい、君の想い出side賢介[ 1/6 ]
1週間前、俺は“紫音”と書かれた本に目を止めた。
紫音と言う言葉を見て、昔教えて貰った紫苑の花言葉を思い出す。
“ベストセラー”だの“映画化”だの書かれた棚に置かれている本を手に取ってみた。
その本の表紙には鮮やかな紫にシンプルな花模様が描かれていて、ネットで書かれたものが出版されたらしいそれは周りの煌びやかな恋愛小説に囲まれてぽつりと置かれていたのだ。
昔のことを思い出しながらも紫音という本を買ってみる。女子中高生が買っていきそうな分野のそれを手に取るのは何だか気恥ずかしかった。
店員さんは興味もなさそうにバーコードを読み込んで、淡々と値段を口にした。ハードカバーの本は高いな、くそ。
それから1週間、仕事の合間にでもちまちまと少しずつ読み進める。隣の村田が怪訝な顔で俺を見る。
何ですか? 俺が恋愛小説読むのがそんなに不自然なのかよ、こんちくしょう。
今日、最後の後書きまで読み終わり、パタリとその本を閉じた。
本の帯には『大泣きしてしまいました!』といった感動が訴えられたコメントがたくさん書いてある。
こういうのって何なんだろうな、通販サイトのレビューとか小説サイトの感想文とかから抜粋してんのかな。そんなことは、どうでもいいけれど。小説で大泣きするなんて、きっとみんな、学生たちって俺たち大人よりも幾分も感情豊かなんだろうな。
……とにかく俺はそんな感想を連ねた人間のようには泣けなかった。
別に、泣けないから変人ってわけでもないだろうけれど。もちろん文章が下手なわけでもない、文章が上手いのもあってとても感動はした。
だけど。
俺はそんなことより、驚いた。感動よりも驚愕が心を奪い去っていってしまっただけなんだ。
この内容、は……
「平川先生」
「へ?」
突然、後ろから他の先生に話しかけられる。