ホントは、最初から弱気になっていた、怖じ気付いていたのかもしれなかった。




「…………?」




ふと気がつくと、俺は水中に浮かんでいた。
誤解しないで欲しいが、これでもかなり困惑している。(つもりだ)
ふと思い立って、俺が体を動かすと水が体に張り付くように蠢いては、ゴポリと音を立てた。何だか妙な感じで気持ち悪い。
真水なのか塩水なのかは、分からなかった。ただ、此処はとても広く深いところというのは理解出来た。
不思議と水特有の冷たい感じは無く、現実味を帯びていないような感じがした。
此処は、現実なのか、夢なのか。はたまた、現なのか。判断材料が足りなくて、推測すらもたてられなかった。

視界はひたすら瑠璃、瑠璃、瑠璃。
泣きたくなる位に綺麗な瑠璃だと素直に思った。
俺は無意識に、さっきまで自分の目の前に広がっていた状態について思慮した。
何故かすぐには思い出せなかったが、喜峰のことだけはすぐに思い出せた。



「よ、し…峰、岬」




思ったより声が出なかった。嗚呼もどかしい。
俺の口から出た声は泡沫になって上に浮かんでいった。ぱちん。案外水面は近いらしく、泡沫はすぐに消えた。



(…水面から出れば、喜峰に会えるのか)



何となく、直感的に、本能的に、衝動的にそう思った。
喜峰とは腐れ縁で小学校からの付き合いだった。一時期名前で呼び合っていたときもあった。
俺は喜峰が好きだ。正しく言うと、恋愛的にも友情的にも人間的にも、『喜峰岬』という存在が好きなんだ。喜峰も同じ感情を抱いてくれて、ずっと一緒にいたのだ。
だけど。



(成長する度に、俺達は現実を見る)



俺は昔から弱虫でいつも喜峰に助けてもらっていたくらいだ。すぐに現実に飲み込まれた。
何だか怖くなって自分の体を抱き締める。嗚呼、自分はなんて情けなくて、不器用なんだ。

嗚呼自由にサッカーを、好きなことをしていたいのに、勝敗だなんて求めてしまう。強がってしまう。力を求めてしまう。
どんどん自分の両眼から、生暖かい水が溢れ出るのが分かった。

俺の体に張り付く水が急に重くなる。水圧が増しているようだった。
苦しい。
苦しい。
く、る、しい。
苦し



「蓮助!!」



増す水圧に抗って、水面を見た。
ゆらゆらと揺らぐ喜峰が、切羽詰まった様子でこちらに手を伸ばしていた。
俺は頭の何処かで前にもこんなことあったなと思いながら、必死にもがきながらその手を掴んだ。

バシャン。




「浪川のことだし、そんなこったろーと思ったぜ」
「…」



気がつくと、そこは部室の近くに備え付けられた医務室だった。



「疲労だってよ。どうせ考え込んでたんだろ」
「…あ、す、すまな、い?」
「馬鹿、すまないで済むか」



喜峰が顔をしかめた。
何か言わないと。



「…ひ、一人で、抱え込んで、す、いま、せん?」
「馬鹿」
「いっ…!」



今度はデコピンされた。
痛い。



「…今のサッカーすんの、苦しいかもしんねえけどよ…俺をもっと頼れよ」
「…すま、ない」
「馬鹿、今くらい良いだろ」
「…ご、め…んな」



喜峰の罵倒はあまりにも日常的で、何だか。



「何が『野郎共』だよ。キャラ作りやがって」
「シードがこんな弱虫じゃ、駄目」



と喜峰が俺の話を遮るように、勢い良く抱き締めてきた。相変わらず喜峰は肌がヒンヤリしていた。



「…辛いのはお前だけじゃない」



そうやって無理して泣きそうな蓮助見てると、俺だって


まるで数多の感情がごちゃ混ぜになったようだった。
俺不覚にも、その喜峰の、岬の言葉に更に泣いてしまった。

















瑠璃に溺死
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