大丈夫だって、嘘を吐いた。(大丈夫なわけがない)
良かったなって、嘘を吐いた。(良いわけがない)
今日も俺は辛くないって嘘を吐くんだ。
(辛くて苦しいさ)
ふと空を仰ぐと気分が楽になる、なんて聞くから実践してみた。
どうやら俺には効かないらしい。寧ろ、空がこんな惨めな俺を嘲笑ってるようだ。
悔しくはない。寧ろ清々しいや。
「なあー風丸?」
隣にいた円堂が言う。
ニコリと笑ってなんだ?と応答する。
「空見るの、そんなに楽しいのか?」
「ああ、結構」
「風丸の髪も空みたいな色してるもんなあ」
「ははっ関係無いだろ」
「そうか?」
ニコニコと対応する。円堂が不思議そうな顔をする。ああ、何しても太陽みたいだ。
と、円堂が閃いたように聞く。
「なあ風丸、何で空は青いんだ?」
「ん?ああ…神様が青い絵の具をぶきまけちゃったんだよ。んで青くなったんだ」
「へー!そうなのかー!」
円堂は無邪気にニカリと笑う。円堂は俺の嘘を簡単に信じちゃうから好き。
だけど俺はその笑顔が好きだけど、見てると何だか辛いものがある。臓器がドクドクいって、圧迫されたような感触が俺を襲う。
いてて。
気付かれないよう我慢する。痛くない痛くない。
「因みに前言ってた来年から日本は肉が食べられなくなるってのも嘘だぜ?」
「えー!あーでも良かったな。唐揚げ食べられなくなるの嫌だしさ!」
ニカリと円堂がまた笑った。他愛もないやり取りが大好きだ。でも円堂はどうなんだろうか。
そんなことしているうちに、俺は嘘を吐くのが上手くなってしまった。あの鬼道でさえも、欺けるようになっていた。
どうしようも無かった。
勇気が出なかった。
言えなかった。
何故って、あの笑顔を壊したくなかったんだよ。
だから俺は『自分を守る術』に嘘吐きになることを選んだ。
自分を守るためだった、はずだ。
円堂が俺から自立していく様を見てると何だか込み上げる物がある。
「なあ、円堂」
俺はサンドイッチのビニール袋をくしゃりとさせて聞いた。今度は俺が聞く番。
ん?と円堂は小首を傾げながら、焼きそばパンから口を離した。
「俺はお前が好きだ」
お前は?と聞いた。
「俺も好きだぜ!」
円堂はニカリと即答した。
俺がこの関係をズルズルと続けてしまう最大の理由は、俺がこの言葉に満足したフリをしてるからだ。
ああ、お前はどんどん歩いていくんだな。
走ってるのに追い付けない。
でもこれが正しい。
これが世界にとっての『正しい』なんだったな。
こうして、俺はツギハギだらけになっていく。
風丸、泣きそうな顔してるぞ?
そんなことないさ。
…それ嘘だろ。
まさか。
ツギハギだらけの手を握る