甘い匂いがしてきた。
ジュ、と何かが焼ける音もしてきた。あれ、今何時?

俺はむくりと体を起こした。パラリと髪が零れた。寝起きで思考が追いつかない。あれ、マジで今何時?つか今日何曜日?
駄目だ。取り敢えず顔洗おう。
俺はぼんやりとする頭なりに思考してたどり着いた考えに従って、洗面所にフラフラと歩いていった。
まだ眠いな…




「狩屋!やっと起きたか」



洗面所に行くためリビングのフローリングをフラフラ通行してると、キッチンにいた霧野先輩が声を掛けてきた。(学校なんたらって言わないから、今日は土日らしい。)やれやれって感じに。多分俺が自分で起きるより前に起こそうとしたらしい。俺は寝起きすこぶる悪いから駄目だったんろーけど。
あれ、にしても何か焦げ臭くね?



「…まさか先輩、何か…いや、先輩フライパン使ったとか言いませんよ、ね?」



俺は冴えてきた頭で思考して、聞くべき質問を導き出して聞いた。嫌な予感しかしない…んだけど。



「ん?使ったぜ?」



あっけらかんと言った先輩の手元を目にも留まらぬ早さで見た。(いや、凝視に近いか)
案の定、もう原型を留めていない何か…何かの食品がフライパンにこびり付いていた。



「あの、霧野先輩」
「パンケーキ焼いてたんだけどな?焦げちまって。狩屋甘いの好きだろ」



おい、当事者。気持ちは嬉しいけど…あ、今のナシナシ!
俺は先輩の両肩を掴んで言った。



「マジ、霧野先輩キッチン使用禁止。つか入っちゃ駄目」









取り敢えず生地のタネは作り終えた。
俺はフライパンにバターをひとかけら放り入れた。ジュ、とバターが溶ける。そこにお玉で生地を流し込んだ。またジュ、と焼ける音。
何で混ぜて焼くだけなのに霧野先輩がやると変色したり辛くなったり、しまいには石並みに固くなったりするんだよ…
俺は頭を抱えた。そんな俺を先輩は不思議そうに見つめていた。それから真顔でパンケーキが出来上がっていく様を眺めた。
霧野先輩の家に居候して気がついたが、先輩はすこぶる料理が下手だった。そりゃあもう、さっき言った通りだ。
先輩にこっちに引っ越してから一人暮らしだという話をしたら、「それ寂しいだろ。あ、そーだ、俺んちで居候すりゃあいいよ」と軽いノリで言われて早くも2ヶ月。
この人俺が居ないときどうしてたんだろ。
霧野先輩もほぼ一人暮らしで時々叔父さんが帰ってくる、という生活をしていたらしい。案の定コンビニにはよくお世話になったようだ。

コトリ。
皿にのったパンケーキをテーブルに並べた。霧野先輩は感嘆の声を漏らした。いや、これは普通だっつの。
パンケーキにメープルシロップをかけながら俺は思った。因みに霧野先輩は、俺が作り置きしておいた林檎ジャムをかけていた。

霧野先輩がパクンと一口。



「うん、やっぱ旨い」
「当たり前」



俺もパンケーキを口にする。うん、上出来。
と、先輩が何か物欲しそうに此方を見ている。仕方無く俺のパンケーキを口に入れてやる。霧野先輩は素直に口を開ける。こんときは素直なんだよなあ。
にしても幸せそうに食うな…。
ピンと。
あ、良いこと思い付いちゃった。
俺は早速実行しようと、席を立つ。



「霧野先輩、口あーんして」



口を指差して俺は言った。先輩は一瞬不思議そうにしたけど、素直に口を開けた。あ、歯綺麗。
俺は素早く自分のパンケーキを口に含んだ。そして唇を重ねさせる。リップノイズが僅かにした。先輩は急なことに目を見開いていた。先輩可愛いー。
舌を使ってパンケーキを押し込む。ちょっと苦しそうな先輩エロい。



「…っは、はぁっか、りや」



やっと離してやると、先輩は頬を染めてはあ、と息をしていた。あー可愛い。至福だ。
そんな先輩がまだ堪能したくて、また俺は口移しでパンケーキを食べさせた。
やだなあ、先輩も満更でもないでしょ?

















とあるパンケーキのはなし

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