死神パロディ
いつまで続くんだか。
俺は毎日のように、そう思った。
死神というのは人の魂を管理し、無事に彼方に送ったり、時には死ぬべきときに偶々死ねなかった魂を直々に彼方に送ることもある。
正に今現在その真っ最中だ。
そいつの魂がなかなか彼方にやってこないのに痺れを切らした上から命じられて早3カ月。
「剣城ーチョコチップメロンパン買ってきたよー!」
「…」
未だにそいつ、松風天馬は何食わぬ顔で此方に生きている。
何故松風が彼方になかなかやってこないのかというと、それは奴の体質にある。
「ねー剣城聞いてよ!今日サスケがコンビニくじの紙拾ってさ、やってみたら一等賞でアイス沢山貰っちゃったんだあ!」
松風は輝かしい笑顔で、アイスが大量に入った箱を抱え上げた。
「………それで?」
「したらさっき食べ終わった奴当たりだったんだ!」
ニコニコと当たりのアイス棒を差し出す松風に俺は頭を抱えた。頭痛え…
松風は極度の幸運体質だった。交通事故は運良く助かるわくじ引きは大体当たるわ、周りに病人がいても全くうつらないわ…駄目だ、考えたら疲れてきた。
兎に角なかなか死なないのである。予定では松風はもう10ヶ月前の交通事故で死んでいる筈だった。が、幸運体質のせいで運良く助かってしまったワケだ。
因みに松風にはこの事情を話した上でのあの振る舞いだ。俺が死神であることを前提としても尚、だ。正直こいつ正気かと思った。
最初は手っ取り早く交通事故に遭わせようとしたが運良く無傷。その次は殺人犯に殺されるように仕向けたが、運良く通行人に助けられた。そのまた次は俺が直々に手をかけようとして失敗。
俺はどうしようも無くなって、今は松風の監視役として側にいるようになった。あんまり身勝手なことされると困るからな。
「ふふひぃってふぁ」
「食ってから話せ」
監視役といってもずっと死神姿のままいるわけではない。(それだと不都合だからな)人間に化けて側にいるのが最近多くなった。
松風がアイス棒をまだ持ちながら、あんパンを含んだ口で話そうとしたのを止めた。落ち着きのない奴。こういう奴ってすぐ死ぬらしいが、こいつはとことん例外だ。
松風の喉がゴクリと上下した。
「剣城ってさ、実は凄く優しいよね」
俺は思わず絶句した。それでも松風は続ける。
「だって、俺をあっちに送りに来たのに無理に送ろうとしないし、監視役ーなんていってもこうやって話し相手になってくれるし」
いつも思うがこいつは本当に訳が分からない。一体どの世界に死神に優しいと言ってくる人間がいるんだ。
「……お前、馬鹿だろ」
「えぇ!?馬鹿?何で!?」
「何でって…死神に優しいとか言わないだろ」
えー??と首を傾げる松風。自覚が無いらしい。
「んー死神だからとか、関係無いんじゃないかなあ」
「は?」
またこいつは何を言い出すんだ。素っ頓狂な声が出てしまった。調子狂う。
誤魔化すようにチョコチップメロンパンにかぶりついた。
「俺最初は何で急にお前は死んでいる筈だーとか死神とかさ、訳分かんなかったけどさ」
松風が首を傾げるのをピタリと止めて、満面の笑みで俺を見た。
何だか妙な気分だ。
「最近さ、剣城と一緒にいられるならそれもいーかもって思うんだ」
笑顔で何てこと言うんだ、こいつ。
「剣城尻尾揺れてる」
「……見るな」
「顔真っ赤」
「……っ…見るな」
「俺嬉しい」
「…勝手に解釈すん…な!」
尾が隠れていなかったようだ。尾は正直らしい。
俺が松風を直々に彼方に送れなかったのは、死なせたくなかったからだ。なんて、とっくに知ってる。気付きたくないと、認めたくないと、どうしようもないと投げ捨てただけだ。
俯いていると(こんな顔意地でも見せたくない)それを良いことに松風が抱き締めてきた。
「剣城ってさ、元の姿のときは鏡に写らないし俺以外の物には触れないしさ。『其処にいる』っていう感じがしないけどさ、こうしているとちゃんと此処にいる感じがするんだ」
「…そう、だな」
「こんな形でも剣城と会えて良かったなあー俺ってツイてるなあー!」
「……そうかよ」
俺は何だかむず痒い気持ちになって、火照る頬を押し付けるように松風に体を委ねた。
黒百合は色を変えていく