非人間パロディ

















俺に安眠をください、とは言ったけど誰も悪夢を食べてください、なんて言ってない。






「って言っても、帰ってくれないんですよね…」
「ちゅーか、それ屁理屈じゃね?」
「そんなのあんまりですよお…」



俺の目の前で、何やら綿飴みたいなものをパクパク食べてる浜野くんは太陽みたいな笑顔でそう言ってきた。理不尽だ。
でもニカリと笑っている彼に、そんなことが言える筈がなかった。

俺はよく俗に言う悪夢をよく見る体質だった。おかげでうなされていつも貴重な睡眠時間を削られているわけなのだ。
そんなときに友人である浜野くんにそれを零したところ、



「え、俺が食べてやるよー」



なんて言ってきたから、てっきり冗談で言っているんだと思った。けど違った。そして現時点に至っている。見事に『友人が実は夢食いバクでした』というオチがついてしまったわけだ。何て反応したらいいか、全く分からないオチがついてしまった。つまり此処は現実ではなくて、夢の中というわけらしい。

一人で静かに悶絶していると、浜野くんはまだ悪夢を食べながら言った。



「いやあー帰ろうっちゅーか、憑くのを止めんのは簡単に出来ちゃうだけどさー速水のってすっげえ絶品なんだよな」
「はい?」



俺が訳が分からないというように声をあげると、浜野くんは愉快そうに続けた。



「バクは夢なら大体食べられるんだけどなー?実を言うと悪夢のがかなり旨いわけ!」
「…つまり浜野くんとしては美味しい俺の悪夢を食べていたい、と」
「そうそう!さっすが速水!」



へにゃりと嬉しそうに浜野くんは笑った。いや、俺はなんというか、色々微妙なんだけど。
俺はやれやれと息を吐いた。なんか最近よくするようになってないかな。うん、浜野くんはストレス感じたことないんだろうな。半分諦めた気持ちになった。



「にしてもホント、速水は変な夢しか見ないねー」
「まあ正夢とか予知夢とかも見ちゃうんですけど」
「あー何かそういうのは無味無臭なんだよ」
「え、何ですかそれ」
「ひたすら口の中が空っぽなんだよ」



浜野くんは口の端を指で掴んで大きく広げた。にしても大きい口だな。これで何人もの夢を食べてきたんだろ。
と、どうやら浜野くんが今日の分を食べ終えたみたいだ。口を拭って浜野くんがポツリと、なんてこともないように言った。



「んー。でもさ、多分俺速水以外の人間の夢食べたくないと思ってんだよねえ」




俺の脳内はクエスチョンマークに埋め尽くされた。どうやら思考回路が繋がらなかったらしい。



「…はい?」



沈黙の末、やっと出した声はやけに冷静だった。只でさえ浜野くんの言動は訳が分からないし、唐突だし全く読めないのにさらに分からなくなってきた。



「あーあれだよな。あの…み…み、みりゅう?あれっ違うなー見切り?あれ?み、みしゅう?何か違うな、あれー?」
「魅了ですか、」
「あー!それそれ!」



浜野くんは、やっと探し物を見つけたみたいに俺を指さしてから続けた。



「そう!速水の悪夢の味に魅了されたってわけ!ちゅーか、俺元々速水好きだったんだよねー」
「は、…え、」
「だから他んとこ行けっても出来ないわー」



出来ない出来ないと、両手をひらひらさせて浜野くんは言った。思考が追い付いていない。



「なん、ですか…それ」


「ん?告った?」
「告った…って…」
「大丈夫大丈夫!ちゃんと惚れさせるからさ!」



たはー、と浜野くんが笑った。とびきり、特上の笑顔のオプション付きで。
一体全体何が大丈夫なんだろう。頭の中がぐるぐるしてショートしている気さえした。



「ちゅーワケで、宜しくな!速水!」



やっぱり浜野くんが分からない。
悩みが増えて肩が少し重くなった気がしたけど、心の何処かでそれもいいかなと思う自分がいたことにも気がついた。
それじゃあまるで、こっちも好きみたい、な。
この夢が覚めたら、俺はどんな顔で浜野くんに会ったらいいんだろうな。




夢から覚めて、ふと頬に触れると、ポカポカと熱を帯びていた。それに動悸もしていた。
つまりは、そういうことなのかな。
















バクの見る夢を食すのは
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テーマ「人外ファンタジー」
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