*R15

















「いっ…!」



南沢さんが小さく声を上げた。なるべく声を小さくしたみたいだけど、俺の耳にははっきり聞こえた。その声に反応した俺は南沢さんに声を掛けた。



「大丈夫ですか?南沢さん」
「…いって!…いっ、……ひ、…分かって、やってんだろ、お前…」



俺の下にいる南沢さんは、俺に恨めしげな視線を寄越してきた。あーあ、せっかくの端正な顔が台無しだ。ゆら、と南沢さんの手が俺の頭を引き剥がそうと弱々しく伸びてきた。顔に触れてきた手は、力が入らないらしくて全く意味を成していなかった。

俺は昔から酷い噛み癖があったらしい。自分じゃあんまり自覚がなかったが、喚くときにはやたらと親の至る所に噛みついたりお気に入りのタオルやらぬいぐるみをボロボロになるまで噛んだり、口元の近くにあるものには反射的に噛みついたり誰かと喧嘩すると必ず相手の体に大量の噛み跡がついていたり。エトセトラ。
俺はそう分かっていながらも、無意識に今度は南沢さんの二の腕に犬歯を食い込ませた。



「ばっ…か、やめ、…っ、…いっ…」



南沢さんが一番可愛らしくなるのは、実はこの時だったりする。(この人実は結構可愛らしー人だったりするんだけど)まあ本人は無自覚なんだろーけどな。



「えー?ホントに止めちゃっていいんですかあ?」
「…い゛っ」



やわやわと今度は手の甲に噛みついていた。南沢さんは、二の腕のときよりは会話する余裕が出てきたらしく俺に弱々しく言った。



「…お前、ちょっとは俺を、いた、われ…よ」



若干早めに胸を上下させて言った。が、何だか煽られてるような錯覚が起きた。言っていることは真逆なのに。
俺は何かがぼんやりと熱を帯びるのを感じながら、南沢さんの頬に爪を立てた。案の定南沢さんが喉を引きつらせてた。自分の口角が吊り上げるのを感じながら、俺は聞く。



「だって南沢さん、痛いの大好きじゃないですか」
「…う、るさ…っい、痛っ…」



嘘吐きだなあ、なんて言ってからふと南沢さんの身体をまじまじと見つめた。首筋には大量の噛み跡と鬱血。胸部にこれまた大量の噛み跡。他の箇所にも軽い引っ掻き傷やら噛み跡エトセトラ。勿論全部俺がやったものばっかだ。付き合い始めて分かったが、南沢さんは何だか軽くそっちの気があるらしかった。まあ、俺としちゃ好都合なんだけど。
俺は首筋に甘噛みをして、舌で舐め上げた。南沢さんがあっ、みたいな煽情的な声を上げた。首筋に噛み付くと南沢さんは喜んでるような節があった。いつもは偉そうなクセにこーゆーときは凄い可愛いな、この人。しかもエロい。



「…止めて欲しかったら、ヨがるの、止めたらどーすか…」
「…っ…っあ、」
「うわあ…ひっどいですね。もう見せられるようなもんじゃないですね、首筋」
「…ひっ、……舐められん、…の、…ヤ、…」



両眼から溢れる水の粒は、許容範囲をとっくに越えて頬に朱を帯びる南沢さんの顔をぐしゃぐしゃにしていた。いつもの南沢さんからは想像出来ないくらい情けなくて背徳的で、煽情的だった。この人どれだけ俺を煽れば気が済むんだろう。そりゃ、好きな人の乱れた姿を見て興奮しないわけがない。ましてやこの俺が。
体中が少し高温のお湯に何時間も浸かったみたいに火照っていた。
でもここは男の意地でそんな素振りを見せまいと思いながら俺は噛み付くのを一端止めて、それから息を吐いて言った。



「好き」



南沢さんが僅かに目を見開いた。いつもはひねくれたことしか言わないからな。
南沢さんはぼんやりと俺の首に腕を絡ませて、譫言みたいに俺も好き、なんて囁いた。
そうゆうとこ、狡いよな。ホント。
















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