夜中、ふと目が覚めてしまった。
結構深い眠りだと思ったんだけどなあ。パチリと瞼が開く感覚がして、俺は真っ暗の毛布の中で目を開けた。寝るときに毛布の中に潜り込む癖の所為だ。両腕だけで毛布から体を出そうと、敷き布団を這う。スウェットと敷き布団がズルズルと擦れた。若干摩擦で痛かった。
「…何で、」
起きたんだろ。
頭をガシガシと掻きながら、俺は何となく呟いてみた。その呟きは月の光が差し込む薄暗い部屋に脆く、崩れていくみたいに消えた。もっとも、呟きに形なんて無いんだけど。
ぼんやりと毛布を眺めていたら、毛布の一部分が光り始めてヴヴゥ゛と鈍い音が響いた。思わず一人で飛び上がってしまった。一体何なんだ。慌てて毛布をがむしゃらにひっぺかしにかかった。予想した通り、俺の携帯だった。まだ振動を続けているところを見ると、どうやら電話らしかった。この時間ってなると、名前を見なくても相手が誰か大体予想がついた。俺はぼんやりとした頭のお陰で、通話ボタンを間違えそうになった。
「あー、もしもし一乃?」
「あ、青山…!」
案の定掛けてきたのはクラスメート兼チームメートの一乃だった。家もそれなりに近所で、幼稚園からの腐れ縁だ。俺の声を聞いて何やら安堵したようで、一乃が小さく息を吐いたのが聞こえた。
「んー?一乃?どーした?」
「…」
少し沈黙を挟んで一乃は言った。若干控えめに。
「…なかなか、眠れなくて」
照れが混じった声色だった。きっと携帯の向こうの一乃ははにかんでいるんだろうと思った。俺は事態を理解して、携帯を握りなおしてから小さく笑った。
「はは、またかよー七助くん?」
「…し、仕方ないだろ!寝れないものは…!」
「恥ずかしがらなくてもへーきだって。そんな一乃も良いと思うし」
そういうと、いつも一乃は押し黙ってしまう。静かに顔を赤らめて。
「……っ、と、兎に角、そっち…また、行っていいか」
やっと本題がきた。深夜にお互いに家宅訪問するなんて他になかなかしないと思うけど、俺達の中じゃ小さい頃からの定番だ。だけど大体は、一乃が眠れなくて俺の家に来るんだけど。
「そんな聞かなくても分かってるだろ?俺一度も断ったことないんだし」
「…まあ、な。」
その声が重なって聞こえた瞬間、下の玄関のドアノブがガチャガチャと音を立てた。あれ、もう来たのか。俺は駆け足で玄関へ向かった。
「実は電話してからずっと歩いてたんだ」
ドアを開けるなり一乃がジャージ姿にスポーツバッグを肩に掛けた状態で、はにかんだように立っていてそう言った。少し肌寒いのか、男にしてはしなやかな白い指先をすり合わせていた。顔を強張らせながら歩いていたんだと思う。俺は一乃の手を引いた。
「早く入りなよ。寒がり」
「…青山と眠るの好きだから我慢したよ」
「そんなのとっくに知ってるよ」
「はは、そうだったか」
一乃はなかなか一人では寝付けにくい体質で、よく俺の布団に入って眠ることが多い。何でも俺じゃないとダメらしい。一乃曰わく、「青山といると落ち着く」んだと。
「青山、またお前はそうやって布団に潜る…」
「あ、やば」
「…まあ、暖かいからいいよ」
明日の授業も居眠りの心配は無いなと一乃がふんわりと笑って、布団の中にある俺の手を握ってきた。
「「おやすみ」」
お互いがお互いに笑いかけて、目を閉じた。
愛哀