パッと機械的な光が、手元の携帯から発された。俺はそれを静かに開いた。

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      12:05
Sb
From 綱海さん
  ねむい
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何とも綱海さんらしいシンプルな文だった。思わず顔が綻んだ。



(それにしても…)



そう思考して、俺は後ろを見た。後ろには俺の背中に寄りかかる綱海さん。
どうしてこんなに近くにいるのにメールで会話するんだろうな。背中越しに、綱海さんがカクンと体を揺らす振動が伝わってきた。眠いのは本当らしい。俺は画面にメール作成画面を表示させた。

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      12:08
Sb Re:
To 綱海さん
  眠ったら良い波見れませんよ
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送信、と。俺の親指が送信ボタンを押した。同時にシャリ、と手に持っていた林檎をかじった。甘い。
後ろからポローンという電子音が聞こえた。まあ当たり前なんだけど。サワサワと波風が、俺達の髪を揺らした。少し肌寒い。
と、またピカピカと光る俺の携帯。

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      12:12
Sb Re2:
From 綱海さん
  ヤダmみたい
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寝ぼけてるのか変換ミスがあった。それでもきちんと返してくれる綱海さんが何だか愛しく思える。(いつも思うけど)
俺はまた林檎にかじる。果汁が砂浜の色を濃く染める。甘酸っぱい。

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      12:17
Sb Re3:
To 綱海さん
  林檎でも食べますか?
目、覚めるかもしれないですし
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ピカピカ。これは早かった。

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      12:17
Sb Re4:
From 綱海さん
  いる!投げろよ
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俺は携帯画面を見つめて固まった。投げろって、何とも綱海さんらしい。ふふふ、と喉を鳴らすように声が洩れた。まだ何分の一も食していないそれを、後ろに投げた。思いの外綺麗な放物線を描いていた。



「よっ」



そんな綱海さんの声の後、パシリと渇いた音がした。どうやら無事に掴めたみたいだ。それからシャリと豪快にかじる音。



「目、覚めましたか?」
「うあ?おお、結構覚めた!」



サンキューなと付け足して、綱海さんは林檎を投げ返した。これまた綺麗な放物線だ。俺はしっかりキャッチする。



「…林檎って、ニュートンが万有引力を発見するためのキーになったんですよ」
「万有引力って…あれかっ?ものは地球の中心に向かって引っ張られてるってやつか」
「はい。それで地球にある物体も、互いに引力や重力を用いて引き合ってるっていうやつです」
「…あーじゃあさ、今こうしている間にも俺達は万有引力で引き合ってるってワケだ」
「林檎と同じく」



世界ってすげーな。

綱海さんが息を吐いて言った。俺は綱海さんと向かい合って、その体を抱き締めた。綱海さんの体は、いつも温かい。いつも冷たい海水に浸かっているのに。



「立向居?」
「何ででしょう。何か、悲しいような嬉しいような気がします…」



それを聞いた綱海さんは、やれやれと息を吐く。



「幸せなような、気がします」
「ははっ断言していいじゃねえの?」
「…はい」



俺は自然と唇を綱海さんのそれに押し付けた。綱海さんは最初は驚いていたけど、頬を染めながら俺を受け入れた。

こうして世界は、俺達の幸せをのせて廻っていくんですね。綱海さん。

ぼんやりとそう思考した。
















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