南沢と倉間

*暴力描写、流血描写あり
















ガッと、物凄い力で右腕を掴まれた。元々巻かれていた包帯が、南沢さんの爪に引っかかれる。カリカリと、猫が爪を研ぐみたいだ。もう見慣れたけど。



「…み、なみ、さわさん」
「倉間、倉間、倉間、倉間倉間」



そう譫言みたいに呟いた瞬間、ぎゅっと南沢さんが俺にしがみついてきた。俺がぼんやりとながらも、南沢さんの背中に腕を回す。南沢さんが満足げに、鼻にかかったような声を上げた。俺は淡く言う。



「南沢さん痛い」
「ヤダ、駄目」



俺は痛いと言ったのに、南沢さんは更に腕の力を強めてくる。まるで離す気がないらしくて、寧ろ絡み付いてきた。痛い、苦しい。



「ヤダ、倉間は俺のだ」
「南沢さ、…」
「どうして誰かに触らせちゃうかな、お前」



そこでピクリと反応した。成る程。どうやら南沢さんはさっき、俺が浜野達と小突き合ったりしてじゃれていたのを目撃したらしい。そう理解したのと同時に、南沢さんが包帯の巻いてない腕に爪を立ててきた。ビリリと痛覚が冴える。



「っ…!」
「駄目、お前は俺のなんだよ。気安く誰かに触らせんな」



南沢さんがギリギリと容赦なく爪を立てるので、案の定血が滲んできた。それに南沢さんの赤い舌が這う。自分の眉間に皺が寄るのが分かった。



「はい、倉間。俺を見ろ」
「…はい」



腕が唾液にまみれるまで舐められた。熱を帯びる腕をそのままに、南沢さんに顎掴まれて顔を其方に向かされた。きちんと応答する。南沢さんが艶やかに笑った。それとは裏腹に、腕はすがりつくように力強かった。



「お前は誰の?」



南沢さんはこういう人だった。元から。俺が知らなかっただけで、元々俺に対しての執念が凄かった。いや、異常といってもいいくらいだ。



「俺は、南沢さんのです」



俺は迷わず、キッパリと断言する。
恐怖は、ない。
不快感も、躊躇も、ない。
それは慣れだけによるものじゃないことを、俺がよく知ってる。



「それでいい。もう誰にも触らせんなよ」



南沢さん御満悦なようだった。さっきまで爪を立てていた腕を、優しくさすって労っている。最初は痛くて仕方なかったけど、随分と慣れてしまった。今はこの傷も、跡さえも愛しい。
俺はまた、その言葉に対してにこやかに「はい」と返事を返した。
















コラージュだらけの網膜

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テーマ「人外ファンタジー」
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