「お誕生日、」
「は?」
「お誕生日おめでとうございます」



山菜がニコリと笑って言ってきた。それから素早く彼女愛用のピンク色のカメラを取り出してシャッターをきった。フラッシュの所為で星が散るように、目が眩んだ。



「…あのさぁ、俺フラッシュ苦手って何回言えばいいんだよ」
「写真は嫌いじゃないなら、平気です」
「そういう問題じゃねえだろ」
「そうでしたね」



いつもならまた此処でシャッター音が聞こえるのだが、今日は珍しく山菜があっさりカメラを仕舞う。まさか逸れがプレゼントとか、言わないよな。



「どうして南沢先輩のお誕生日を知っていたのかというと、単にシン様から聞いたんです」
「あ?何で神童が知ってんだよ」
「これに登録してあったみたい」



と山菜がふわりと俺の携帯を指差す。いつの間に自分の誕生日なんか登録したんだ、自分。全く覚えがなかった。



「………ねえ、南沢先輩」
「ん?」
「プレゼント代わりのお話、聞いてくださいね」



山菜は変なところで強引だ。「聞いてくれますか?」じゃないところとかさ。よく分からん。俺は首を縦に小さく動かす。山菜はふわりふわり笑う。やけに楽しそうだな。



「人は、『犯罪者』とか『ズレた人』だとか、『援交してる人』だとかを嫌悪しますけど。」



私、最近思うんです。



山菜がニコニコと笑っている。でも俺は知ってる。この可愛らしくて女の子らしい笑顔で、コイツは、えげつないことを言ってのける。



「誰だってそうなる可能性があるのに、どうしてそんなに嫌悪するのかなって。」



ぶっちゃけ。山菜が話す類の話は、大抵俺が苦手とする類だ。だからといって拒否したくはない。宙ぶらりんなのは自覚済みだ。



「…可能性、な」
「そうです」
「今の時代、何をするにも便利になったよな」
「…うん、そう」
「やろうと思えばパンだって簡単に焼けちまうし、整形したいって思えばすぐ出来るしな」
「可能性が、満ち溢れてるんです」
「……」



嫌な流れに成ってきた。山菜はクスクスと笑って、コンビニで買ったあんまんを食む。



「セックスだってやろうと思えばヤれます。でもそれって、いつでも援交出来ちゃうってことですよね」
「……」
「それって、人を殺すことも、万引きも出来ちゃう。」
「!」
「それに、ずっと健康体でいれる保証もないんですよ。気が狂うことだってあるのに。」



俺はす、と手のひらで山菜を制す。此方がパンクしそうだ。



「…ストップ。つまりあれだろ?今こうしている間、やろうと思えば俺はお前を殺せるし犯せる。お前もやろうと思えば俺を殺せるし捨てることも出来る。」
「なのに、嫌悪するなんて、滑稽」
「…………そうだな。」



なんて気分の悪いプレゼントだ。と思った。



「ふふふ、これがプレゼントだなんて冗談ですよ」



山菜がしたりやったりというふうに笑う。それから持っていたあんまんを半分に割って、大きい方を差し出してきた。



「は」
「今のは甘えん坊な先輩へのプレゼントのオマケの話です」
「…山菜…お前……」



呼ぶと、山菜が可愛らしく、俺の好きな笑顔で笑って



「ハッピーバースデー、南沢先輩。あんこ好きでしたもんね」



彼女は本当に掴めない。敗北感を感じながらも、俺は山菜の空いた腕を掴んで唇に口付けた。
















アンハッピーバースデー

Happy Birthday自分!
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