こいつはそんな声色で何てことを言うんだ。





「明日でこの世界、滅びちゃうんだって」





こんな無邪気な、愉しげな口調で言うことじゃないだろ。
狩屋に言われる前に俺はもうそのことを知っていた。そう言うと狩屋がレモンイエローの瞳を半分伏せた。



「なんだあ。剣城君もう知ってたの」
「ニュースで騒いでるだろ」
「あ、それもそっか」



ケラケラとカラカラと、狩屋が笑う。作りでも演技でもない、自然な笑い方で。当たり前と言われれば当たり前だ。



「俺てっきり追い返されると思った」



ニヒッ。
そう狩屋が笑う。俺はゆっくり水色の髪に手を伸ばす。撫でると気持ちよさそうに目を閉じる。完全にレモンイエローが閉ざされた。



「だってさ、今日で世界最後の日なわけじゃん?一人でいたいとか言いそう」



今度は俺が瞳を伏せた。



「何を根拠に」
「偏見に近いかも」



酷い奴。そう思って狩屋の柔らかい頬を軽く抓る。痛そうだ。



「痛い痛い痛い!ごめんって!」
「猫の鳴きマネしたら許す」
「えー…にゃんにゃん」
「猫に謝れ」
「剣城君厳しーってー」


俺は自然と笑みを浮かべが、狩屋は不服そうに唇を尖らせた。機嫌直しにさっきより優しく柔らかく頭を撫でる。狩屋は俺に撫でられるのが好きらしい。徐々にさっきの気持ちよさそうな表情に戻ってく。



「狡いよなー」
「何がだ」
「機嫌取るの上手いのとか」
「満更でもないんだろ」



狩屋がバレた?とはにかんだ。そのまま狩屋が両腕を俺の首に絡ませてきた。反射的にそのまま頭をポンポンと撫でる。
次に狩屋の口から発された言葉は、予想外の内容だった。



「…そうなんだよな」
「…」
「俺が欲しかったのは、こんな未来なんだよな。俺はこんな明日が欲しかったんだ」



まるで独り言のように、それでいて俺に囁くように狩屋がポツリと言葉を紡いだ。狩屋の両腕が更に絡み付いてきた。
縋りつくように、何かを強請るように、すり寄ってきた。その対象を、俺は知っている。
撫でる手が止まった。



「明日が欲しいだけなんだ」
「…」
「ヒロトさん達に朝起こされて学校行ってさ、天馬君達と登校して霧野先輩達と朝練して、剣城君とこうやってベタベタしてさ、」



息が止まったような感覚がする。息を呑んだ音が微かにしたが、どちらのなのかは分からなかった。



「そんな明日が欲しいんだ、剣城君」



笑いかける狩屋の瞳に、水滴が滲んだ。零れそうなのを、コイツは拭わない。



「…12時半」
「……それが、世界が滅びちゃう時間なんでしょ」
「明日は、ない」
「…知ってる」
「頭では分かってても、認めたくない俺がいるんだ」



そう呟いて、狩屋の瞼にキスを数回落とす。慰めなんかじゃない、慈しむための、愛しむためのそれだった。後もう少しで、12時半だ。



「さよなら、世界と剣城君」
「馬鹿、」



また逢える。
強く掻き抱いて言ったその言葉は、サイレンに霞んだ。
そのサイレンと共に、何かが聞こえた。サイレンと、サイレンと、何かが。
















窮屈な世界で息をする

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