朝目覚めると、何かがおかしかった。何か、何かがおかしい。
俺は物凄い違和感をビリリと感じた。違和感というのは決して愉快な物なんかじゃない。寧ろ不愉快で気持ち悪い。もやもやと胸の辺りにくるものがある。どうにかしたい。俺の手が自分の服の胸倉を掴んだ瞬間、違和感が最高潮に跳ね上がった。



両手の感覚が、一切無い。




どうしてかすっかり脱力してしまって、病院やらに行く気力も無かった。つまりは違和感を抱えながら、これからを生活しなければならない。憂鬱な話だ。



「…」
「…何だ」
「…」



バレると色々厄介だからメンバーに悟られないように過ごしていた。のだが、どうやら松風には通用しなかったらしい。物凄い視線が、俺に注がれている。心中で舌打ちをした。マズい、相手が相手だ。さっさと帰っとくんだった。



「…剣城」



いつもより低い声が掛けられた。松風の手が俺の手の平に重ねされる。
感覚は、無い。視覚からその情報を受け取っているからそう云えるだけで、これで俺の視覚が機能しなかったら手の平が重ねられてることなんか分からないだろう。嗚呼気持ち悪い。でも病院は嫌だ。行きたくない。



「…やっぱりだ」
「…」
「触れられてる感覚、無いんだろ?」



そう紡ぐ松風の指先が、忙しなく俺の手のひらやら手の甲を撫でる。くすぐったい筈のその動作も、感覚を無に還した。



「やたら手の平気にするから、何か手の平怪我したのかなーって思ったけど」
「…怪我、には…近いかもな」
「度合いが違うよ」



低い声に更に儚さが滲んだ。何でそんな声で話すんだ。



「腕は平気?」
「ああ」
「…手、だけ?」
「ああ」
「そっか」



松風の指先がピタリと停止する。何だか顔を見てはいけない気がして視線を逸らしていたその顔に、視線を向けた。
碧が、此方を見つめ返した。
真っ直ぐで吸い込まれそうになる。



「手、繋いでも分かんないのは寂しいけど」
「…」



俺の喉が口内の渇きを紛らわそうと上下すると、それを見計らったように松風の唇が俺のに吸い付いた。リップノイズが耳に焼き付いた。



「…んぅん…!」



俺が小さく抵抗すると、松風は何故か笑って俺の唇を舐めてきた。



「…ん、こうやってキスしたり抱き締めたり出来るから、良かった」



言葉が詰まった。そうしている間に松風は俺の項辺りにすり寄って、力強く引っ付いてきた。顔は見えない。
コイツは何を言ってるんだと思った反面、



「…馬鹿だな、お前」
「いいよ、馬鹿だし」
「ポジティブご苦労さん」
「あは、ご苦労さん」



そう思った、反面



「…でも、」
「…」
「少し救われた」
「そっか、良かった」




松風がやっといつもの調子に戻ってきた。さて、この両手とどう向き合っていくか。

ほぼ不意打ちで、松風が重なった俺の手にキスをした。
















燃え死んだのは君か揚羽か

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