等価交換というのは噛み砕いて言うならば、同じ価値のものを受け取るならばそれと同等の価値を有するものを返さなければいけない。あれ、これは義務的なものだったか。まあそんな感じの考え方のことを言う。
じゃあ俺は、俺は。



「……なあ」
「……。」
「狩屋」
「……なあんですかあ、霧野先輩」



ニヤアと猫が笑ったらこんな表情をするんじゃないか、という笑みを狩屋が浮かべる。そしてまた座り込む俺の胴体にガバリと抱きついてきた。俺は何となく水色の頭に頬擦りした。俺の体の重心が後ろに移される感じがしたけど、抵抗はしない。する気がない。



「あはっ、先輩可愛い綺麗」
「…ありがとう?」
「クエスチョンマークはいらないですよ」



ニコニコと狩屋は俺をゆっくりゆっくり、焦らすみたいに押し倒す。言わないけど、俺は思う。狩屋が俺に向ける感情は、そんな可愛らしい笑顔と比例するようなもんじゃない。分からないなりに分かってるつもりだ。あれ、つまりこれって分かってない?
ぺらり、狩屋の尖った指先が俺のシャツを捲る。くすぐったい。



「何、考えてるんです?」
「ダーウィンの進化論について」
「えー」
「嘘嘘、狩屋のこと」



そう言ってのけてやると、またニコニコ笑い出して俺の頬やら腕やら額に軽いキスをしてきた。このときの狩屋は吃驚するくらい、心臓を抉られるくらい可愛い。まさに吃驚仰天ってやつだ。あ、それは言い過ぎか。



「こうしている間にも霧野先輩の頭の中が俺で一杯なんですねえ…なんかそれすっげえいいなあ」
「何でそこで恍惚してんだよ」
「そりゃあ俺のものに俺のことで頭一杯って言われちゃったら、例えそれが俺を油断させて殺す手段だとしても、俺はこの表情を崩さないでいられる自信がありますよ」
「俺が好んでハニートラップなんてすると思うか?」
「少なくとも殺すことはありそうですね、そんなの望んでないけど」



狩屋の笑顔が薄笑いに変わっていく。軽く作ってたのか、な。今はそんなこと問題じゃないけど。狩屋の唇が衣服のはだけた俺の首筋に吸い付いた。それから感じる刺されるような痛み。赤い花を散らされたらしい。おいおい、お前昨日もその前も散々付けたじゃないか。



「あ、嫌ですか」
「…いいよ」



聞かれたら、肯定してしまった。聞かれたら、肯定してしまうのは俺の悪い癖だ。特に、コイツの前では、余計にそれが出てしまう。するといつものしたり顔で、狩屋が耳元で囁く。水色が、零れる。



「あのさ、霧野先輩は分からないかもだけどさ。」



…バレたか。



「俺本当に霧野先輩のことだあいすきなんですよ。そうだなあ…あれですよ、ずっとずっと傍にいたいくらい。」
「ずっとずっと、ね。…どれくらいまで?」
「だあから、ずっと」
「はぁん」
「そんな肯定的な意味合いの声出すなら色っぽい声くださいよ」
「お前次第だな」
「いつもやられっぱなしな癖に」



拗ねたように俺の晒された脇腹に触れる。ふ、と鼻にかかるような声が洩れた。



「ねぇ、本気なんですよ、案外俺」
「…ん、俺に…?」
「ホント、今すぐ家に連れ帰ってずっと傍にいてもらいたいくらい。死ぬまでずっと俺の傍にいんの。それまで霧野先輩死んじゃダメ。死んだら俺確実に後追いしますね」



にっこりと、レモンカラーの瞳が笑みに歪んだ。笑みに、歪んだ。

まるで鉛だ。コイツは鉛みたいな愛情を、愛を、俺に向けている。

不思議と重いなあとか、面倒だなあとか、そんなことは思わなかった。寧ろこれがいいと思う俺がいた。軽々しく愛を囁くとか、頭沸いてんのかなとさえ思う。だから、これがいい。『コイツがいい。』



「じゃあ、お前が死んだら後追いするから」
「あはっ、その前に死にませんし死なせませんから」



それもそうだった。
















道化のエゴイスト
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