「総介!総介!」



男子中学生らしからぬ無邪気な声色で、いつも貴志部は話しかけてくる。(部活のときのは一体なんなんだ)ついでにタックル付きで。そんなわけで、現在俺こと滝総介はそのタックルをされた直後だ。痛くはない。痛くはないが、心臓がというか心臓に悪い。



「…何だ?」
「あのなあのな、大昔は人間は魚だったんだそうだ!」



始まった、貴志部の電波発言。今回は誰の入れ知恵なんだと思いながら話を聞いてみる。



「大昔ってどれくらいだ?」
「1001726年前」



かなり具体的だった。
いやいや、断じてこれを信じて聞いているわけじゃない。けど、直ぐに否定するのも躊躇われる。貴志部を見ていると、『否定』するのが大罪なような気さえする。ワケが分からない。



「つまりはあれだな。昔は皆サーモンだったというワケだな、うん」



何でサーモンなんだよ。貴志部は感激したように首を何回か縦に上下する。



「まさかお前それ食べようとか思ってるのかよ」
「え、駄目なのか?サーモンだぞ?」
「あのな、仮にそれ後々人間に成るんだぜ?」
「うん?」



駄目だ。ワケが分からなくなってきた。そろそろ本当のことを教えてやろう。溜め息を吐いて、貴志部の頭をわしわしと撫でた。もふもふしてるな、相変わらず。



「あのな、別に魚が人間になったんじゃないんだぜ」
「えっ」
「人間の祖先は猿人だとか新人だとかっつー生き物らしいぞ」
「…食べられるか?」
「食べれるか!」
「食べられないのか…」
「つか、誰からこれ聞いた?」
「え?和泉と跳沢」



あいつらか…案の定過ぎて脱力感に浸る。すると貴志部がはっと体を震わせた。それからバッと前のめりになって俺に言った。



「どうしよう総介!和泉と跳沢の足抜かないと!」
「はあ!?」
「だって嘘吐きは足を抜かないといけない!」
「やめろ!怪我人増やすな!その鋸置け!そんな顔してんな物騒なもの持つなよ!つか抜くのは舌だしそれ言葉の綾だろ!」



貴志部が言うと本当にやりかねないから、慌てて両手を封じて止める。一回封じると、貴志部は案外あっさり大人しくなる。もうこれは俺の役目になりつつあったからか、随分手慣れてきた。手慣れちゃいけねえ気がするが。



「全く…サッカー部員減らすようなことすんなよ、キャプテン」
「俺としたことが何てことをしたんだ」
「…反省したならいい」
「そ、総介がデレた…!どうしよう、明日は盾が降るんじゃないのか」
「んなわけあるか」



パチンとデコピンをお見舞いしてやる。手加減したつもりだが貴志部にとっては痛かったらしく、涙目になって額を押さえていた。



「痛い…総介、痛いぞ、お前のナイトがぐるぐる走り回ってバターになるくらい痛い」
「なるか!つかどんな例えだよ」
「馬のバターって美味しいのか?」
「知らねえよ!つか食うな!」



何でもかんでも食べ物に関連付ける貴志部だった。



「ったく…」
「あはははは」
「何笑ってんだよ」
「いや、総介がいつも構ってくれて嬉しいなと思ってな」



満面の笑顔を、向けられた。間抜けた笑顔だった。逆に言えば、屈託のない花みたいな笑顔だった。馬鹿だな。率直にそう思った。何で俺にそんな表情見せるんだ。



「笑顔で言うことねえだろ」
「そりゃ笑顔になるさ、総介好きだぞ!」
「…本当馬鹿だな、お前」
「はははっ」



何だか頬の辺りが熱くなってきて、何だか悔しくなってきた。から貴志部の弱点の喉に噛み付いてやった。
















だから離すなって言ったのに

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