その小さな小さな背中が丸くなる。そうするとまた小さくなってしまう。どれだけコイツは自分を小さく見せたいのだろう。といってもこれは本人の意志じゃない。寧ろ相反しているんだろう。嗚呼痛々しい。



「…狩屋」
「…っっ、……」
「狩屋」
「…………っ」



幾ら名前を呼んでもうずくまった体制を崩さず、顔さえ上げてくれなかった。僅かに微かに、息の詰まるような声が洩れている。嗚呼やっぱり痛々しい。いつものことながら。俺は狩屋を怖がらせないようにゆっくり近付いて、いつもの何倍にも小さく見える背中に触れた。狩屋が全身をビクンと強張らせた。それから落ち着くまで少し待ってやって、背中をポンポンと撫でてからまた身を寄せる。背中をさするとまた狩屋の痛々しい呼吸音が洩れた。そして俺の胸に愛しさが生まれる。



「狩屋…」
「せ、ん、…ぱぃ……っ」
「ほら、怖くないから顔上げろ」
「……うん」



狩屋は言われたとおり、体をフルフルとさせながら顔を上げた。頭を動かした反動で檸檬色の瞳から溜まった雫が零れそうに揺らいだ。背中をさすっていた手で雫を拭うと、心底安堵したように顔をくしゃりと歪めた。ボロボロと雫が流れ落ちた。雫は俺のジャージに滲んで色をぼかした。段々狩屋が静かに怯えながら泣き始めた。雫でキラキラ反射する瞳に俺だけを写して泣きじゃくる。



「…あ、…ぁあ、こわっ、…!こ、わかっ、た……で…」
「うんうん、もう大丈夫だ大丈夫だよ狩屋。もう真っ暗じゃないから、な?」
「ひぐっ、ひくっ……あ、せんぱ…いぃ……」
「大丈夫大丈夫」



狩屋は暗闇を怖がった。怖がりな彼がそう限定して言うのだから相当なんだろう。最初はそんな認識しかなくて、つまり俺は狩屋の暗闇への恐怖を甘んじて見てしまったわけだ。
いつもの小生意気な彼は何処へいったのやら。そんな様である日、狩屋は薄暗いロッカールームに怯えいたのを見た。俺は吃驚して、少し目の覚めた頭であいつは怖がりなんだと改めて認識した。それからというもの、俺は狩屋を守ってあげたいようになって、『エゴとして』狩屋の恐怖を和らげていた。所詮、エゴだった。



「停電するなんて、な」
「…こわかった、で…す」
「落ち着いたか?」
「…後、…もう少しこうさせて…くださ、い」



まだ震えが残る体を抱えて狩屋が不安げに訴えた。ビキッと痛いくらいにしがみつかれた。背中だとか二の腕に少し爪が立てられて痛かったけど、俺は構わずに狩屋の頭を撫でた。



「…き、りの…せんぱぃ…」



小さく呼ばれた。
嗚呼お前は俺を拒まないんだな。拒まないでいてくれるんだな。
俺は狩屋にすり寄った。と、狩屋が大分落ち着いてきた様子で言った。



「…先輩、…恐いんですか」



弾かれたように瞳を開いた。どうやら俺の体は震えているらしい。共鳴でもしたのかはたまた。嫌な汗を感じながら俺の口は動いた。



「臆病って共鳴すんのな」



狩屋は赤くなった鼻を擦りながら、俺の言葉に首を傾け耳を傾けた。これは独り言だよ、とは言わなかった。



「俺も、恐いよ」
「……はい、」



狩屋は俺の肩に頭を乗せた。何がとは聞いてこない。分かってるんだろうなコイツ、薄々。流石同族。



「独りは恐いよな」
「…ん」
「お前を見てるとつくづく独りは恐いんだって痛感するよ」



心底痛感するよ。何時になっても今でも、未だに俺は強くなれずに臆病者になっていた。それは俺も狩屋も同じことだった。



俺達はお互い同族嫌悪をしなかった。同族嫌悪とは対極の位置に、どうしようもなく存在していた。
故に幸せだった。

















Mr.merry

蘭マサの日のお祝い文章
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