「なあ影山」
「…うん」
「俺、お前に何かしたっけ」



影山ははあ?と言いたげな表情を浮かべてキョトンとした。きっと俺もそんな状態だろうから、今俺達を取り巻いてる空気は収拾のつかないものになってるんだろうなあと思う。それにしても人間というのはどういうわけか、訳が分からなくなるとなんとも筋道が通っているとは言い難いことを発言するようになるらしい。現に今、俺こと狩屋マサキがその現象に遭っていた。

事の原因はあの女顔先輩だった。今日の部活の練習は2対2だった。そして俺が組まされたのは影山こと影山輝。そして相手が霧野先輩とキャプテンだった。最初俺達はオフェンスだったから、俺は影山にパスをして練習をスタートさせたわけだ。勿論攻めればディフェンスがやってくるわけで、案の定位置の関係で影山に向かってきたのは霧野先輩だった。そしてお得意の「ザ・ミスト」を影山にお見舞いしたのだ。そして次の瞬間、爆発したんだ。何がって、霧を纏った影山が。いやあ人間こんなんで爆発しちゃうもんなんだねーなんて軽口叩けるようなもんじゃなかった。こうして、何等身か大きくなった影山が目の前に鎮座している現在に至る。



「いやいや狩屋君落ち着いて!何もしてないからね!?」
「いや、何かもう頭がついて行かないんだけど」
「それは僕もだから!」



かくじかじかで大きくなった影山は保健室に連れて行かれた。俺によって。自分でもこれ効果あんの?並みの意味の分からない対処だったが、放置するよりマシだと思う。
それにしても、だ。
デカい。俺と影山の身長差なんて殆ど無かった筈なのに、今は頭二個分くらい違う。足も胴体も長くなってる。ユニフォームもキツそうだし、手の平もデカい。暫くすれば元に戻るのは分かっていても、俺は少し寂しくなった。
広い手の平が頬を覆った。



「どうして、泣きそうなのかな」
「は」
「狩屋君、泣きそうな顔してるよ」



反射的に顔面を掻くように目元を手で隠した。我ながら早技だった。ペタペタと触れてみたが、まだ涙が零れたわけでなかったらしい。良かった良かった。



「あ、ひょっとして、大きくなった僕は嫌?」
「…そうじゃないって!そうじゃ、ない…けど…」
「うん」
「…え、言わなきゃ駄目?」
「ううん。無理には聞かない」



俺を真っ正面から見つめていた目が、傍の薬品棚に向いた。困ったように笑うその表情は、あまり好きにはなれなかった。影山は変なところで身を引く。その時に決まって困ったように笑うのだ。大きくなって大人びた所為か、それは更に儚さを帯びていた。



「…お前が急にデカくなって、何か、置いてかれた気がしただけだよ」
「…大丈夫だよ、ちゃんと元に戻るだろうし」
「分かってるんだけど、さ。こうも差が出るとさ…」



俺は手の平を影山の手の平と合わせてみた。大きくなる以前より遥かに面積が増えた手の平が、遥かに俺の手の平に圧倒的な差を見せつけていた。影山の片方の手の平が、俺の頭を撫でてきた。頭をすっぽり覆う手の平が、何だか寂しくなった。実際に成長したわけではないのに。



「大丈夫、僕には狩屋君を置いて成長なんて出来ないから。一緒に成長していこうよ、ね?」
「……こ、子供扱いすんなよな!同い年なんだから!」
「はいはい」
「しかもどうせ元に戻るんだろ!早く戻れよ!」
「先輩達が元に戻る方法見つけたらね」



まるで赤ん坊をあやすみたいに、大きい体に抱き締められた。きっと何時もなら拒むそれも、寂しさと焦りに苛まれた俺にとっては縋って甘える行為に変わる。俺は遠慮なく影山に引っ付いて、情けなく寂しさによる涙を引っ込めていた。影山はずっと、俺の丸くなっていた背中を撫でて続けていた。














アンサンブルは行方不明
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