一つになるって、どういうことなんだろうか。複数のものが、一つに凝縮されて一つに成る。つまりそれは、複数が互いを共有することになるのか。ならばそれは



(俺達には出来ないんじゃないかな)



これが正直な感想だった。



「わっ」



小さく発された声に我に返った。物思いに耽っている間に、一之瀬が俺の頬に自分の頬をくっつけていた。どちらかというと無頓着な方の俺は、その近距離である事実に対して何も言わない。それよりも、一之瀬が何に対して声を上げたのかの方が気になった。



「何で驚くんだよ」
「だって半田スッゴい温かい」
「はあ?」



そう言ってまた頬同士を隙間なく密着させる。さっきは感覚が覚醒しなくて上手く機能しなかったが、今は感覚が機能して心臓が跳ねた。ドキッとしたとかでは無くて、単に一之瀬自体に吃驚した。



「一之瀬お前すっげえ冷たい」
「え?さっきは何も言わなかったじゃないか」
「さっきは感覚鈍ってたから」
「考え事してたから?」
「そうそう」
「ふーん」



にっこりしていた表情が、面白くないとでも言うように陰った。例えるなら、そうだな。直射日光とまでいかない、木漏れ日に雲とまでいかない、霧がかかったような感じだ。つくづく一之瀬は曖昧な奴だと思う。何というか『何が言いたいのかサッパリ』なんだよな。人のことは言えないけど。



「またそんな険しい顔しないでよ」
「お前が分かんないんだよ」
「それはそうだよ。俺達他人なんだし」
「そりゃあそうだけどさ、分かろうと努力したっていいだろ」
「わあ嬉しい」



可愛らしく(多分)小首を傾げて、お得意のハグをされた。よくよく感覚に意識を集中させると、一之瀬の腕も胸も冷たかった。まるで人形みたいだ。愛想良く笑って、無理したように笑って。本気で笑っているのかいないのかが曖昧で、人が良くて、頼まれたら断れない。つまり前々からそういう認識があったってわけだ。途中からは嫉妬だっていうのは重々承知だ。でもやっぱりこいつは人形みたいだ。陶器みたいに冷たい。ちゃんと息してるのかな。



「俺が温かくて一之瀬が冷たいなら、一つになれるかもな」



俺は独り言のつもりでそう言ったのに、一之瀬がそれを拾った。



「分かり合えるって話?」
「いや、物理的にって話」
「……溶け合うわけか…」
「そうなるな。半田真一という人間と一之瀬一哉という人間の境界線が無くなるわけだし」



俺は試しに一之瀬を抱き締めてみた。最も、体温が違うからといってそれがうまくいくなんて思ってない。あくまでも夢、夢幻、幻想の類の話だ。一之瀬の体が揺れた。



「誰かと分かり合えるなら、溶けてみてもいいかもしれないな」
「…人間が溶けるとか、結構エグいと思うんだけど」
「夢のないこと言うなって」



溜め息を吐かれた。理不尽だ。



「分かり合えないよ、人間は」



そんな権利、与えられてないんだから。



耳元で囁くと、一之瀬が愛想笑いをした。誤魔化したかったみたいだけど逆効果だ。俺は冷めたように、そう言った。



「冷たいなあ」
「人形みたいなお前に言われたくないよ。」
「人形?俺が?」
「そうだよ。生きてる感じがしないし」
「…こういうこと言われるから、分かり合ってみたいんだよ」



ぼんやりとした黒い瞳が、更に輪郭をぼかす。何かに現を抜かしてるみたいだ。俺の瞳が、顔が、その黒の中に映り込んだ。輪郭はあるけど、酷く冷めている、気がする。



「半田こそ、生きた人間に義眼填めてるみたいだよ。」
「…それは俺も思った」



不意に笑った一之瀬に、俺は笑いかけた。お互い割と本気で笑った。
共感はやっぱり嬉しいものがある。














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