「俺さ、そんな狩屋は嫌いだよ」



にっこりと薄笑いをして天馬は断定した。その言葉に迷いは無くて、躊躇いも感じられない。天馬君らしくない口調だった。普通なら此処でショックを受けたり不愉快とか不快になったりするものなんだろうけど、俺は昔からそう言われることには慣れていた。慣れている筈、なんだけど、正直言うとチクチクと痛い。何処が痛いのかって言われると上手く言えやしないけど。ただチクチクするだけ。



「ふうん、そうなんだ」



チクチクするのを感じさせないように、素に近い笑いを意識して貼り付けた。何てことも無いように相槌を打つ。天馬君がパッチリとした碧眼を憂いたように半分に潰す。ふうん、天馬君ってこんな顔もするんだ。



「ほら、そうやって貼り付ける」



拗ねたように天馬君が俺の頬を力一杯抓ってきた。不意打ちのそれに俺は飛び上がった。勿論色んな意味を含んで。その手を伸びっぱなしの爪で引っ掻いてやろうとしたけど、何故かその指先は反射的に引っ込められた。あれ?



「いたひんだへど」
「狩屋がいけないんだよ、俺の告白に変な嘘で断るから!」



語尾が強くなったと同時にピンポイントに一際強く抓られて解放された。ああ、なんか口内の肉も抓られた感じがする。痛い。
ところで天馬君は何で怒ってるんだろうか?あれ、振り出しに戻った?



「俺に嘘吐いたからだろ」
「…ああ、えーっと…どんなのだっけ?」
「内容はどうだっていいんだよ、大事なのは俺に嘘吐いたっていうことなんだよ!」



段々いつもの慌て顔に戻ってきた。少し安心安堵。けど顔をズイズイ近付けてくるのは勘弁してほしい。ドキドキしちゃうだろ馬鹿!



「天馬君近い!顔…!近いって!」
「え?」
「…あ、」



つい口走った。ボボッと全身に熱が帯びる。それとは正反対に、頭の中ではサーッと血の気が引いてた。よく分からない温度差を抱えた俺を知ってか知らずか、天馬君は近距離をそのままに頬が染めていって顔を綻ばせていた。『嬉しさ爆発』って顔だ。思わず視線が泳ぐ。



「狩屋!まだ希望はあるってことだよね!?そうだよね!?」
「え、…や、…あーもう!」



天馬君が腕を大きく広げてきた。そして俺の体がその腕に包まれる。駄目だ、キャパシティーオーバー発生。頭の中がショートかフリーズした。歯車と歯車が上手く噛み合ってない。ギリギリギチギチ。要はパニック状態に陥ったわけだ、成る程。
というか天馬君もよく見抜くよな。だってこれで告白14回目だぜ?(おおーまだ生きてる思考回路があったみたいだ)そもそもよく諦めないよな。まあこれはサッカーで証明されてるか。兎に角それだけ、コイツ…じゃない、天馬君は俺が好きってことなのか。嘘吐かれても?
…何だそれ。



「…どうなっても、知らないから」
「うん!」
「天馬君、俺と付き合って軽蔑されるかもよ」
「別にいいよ!」
「…俺に、幻滅するかも、よ…」
「狩屋のこと知りたいんだもん、だから全然平気!」



どうしよう、ドキドキし過ぎて胸が焼け焦げそう。
パニック状態の頭のまま天馬君と見つめ合っていたら天馬君の顔が近付いてきて、俺の嘘吐きな唇が震えて心臓がドクンと脈打った。














うそつきな唇は塞いでしまえ

ダイヤの原石様に提出
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -