クリームソーダのメロンカラーの液体を飲み込む。それから直ぐにストローでバニラアイスをつついて崩して飲み込む。勿論味わって飲み込む。が、急ぎ過ぎた所為か冷たさがダイレクトに歯と喉に走ってしまった。



「そんなに急いで飲むからだよ」



クスクスと吹雪先輩が肩を揺らして笑った。笑われた。俺としては面白くない。この人は何時もそう、相変わらず俺を年下扱いという名の子供扱いをする。(見た目からして絶対そんな扱いを受けるだろうなとは思った)自覚が有るというのが何とも悔しいしやるせないけど、年齢的にも精神的にも俺はまだまだ子供だ。



「コラ、爪噛んじゃ駄目だろ」
「いつから吹雪先輩は俺の母親になったんですか」
「うーん、雪村に出会った瞬間からかな。あ、そうやってまた噛む…」



無意識に爪を噛んでいたようで吹雪先輩が呆れたように注意する。本当に、母親みたいだ。本当に。
と、ぼんやりしてたら吹雪先輩が俺の手首を掴んだ。といっても優しくキュッて感じに掴まれたんだけれど。シュワシュワとメロンカラーの炭酸が弾ける。



「あれ、雪村マニキュアなんてしてどうしたの?」



え、と喉から声が転がった。てっきりマニキュアを見て手首を掴んだのかと思ったのだ。そうじゃなかったらしい。キョトンと、子供のような目をして不思議そうに群青に塗られた爪を眺めている。なぁんだ。先輩にもまだ子供なところ、まだ残っているじゃないか。



「木瀧に塗られました」
「へぇ、似合ってるね」
「え」
「雪村の髪とお揃いなんだ」
「…ら、しい…です」



そう、そう。分かってはいる。分かってはいるんだ。吹雪先輩はさらりとこんな言葉を不意打ちにばらまいてくんだ。ついさっきまで目が合っていたのに、羞恥で頭が一杯になった所為で顔を逸らしてしまった。おまけに語尾まで消え入りそうになる始末だ。必死に羞恥を掻き消そうと躍起になっていると、スルリという滑らかな感覚が指先を襲った。



「吹雪先輩、…な、にしてるんですか…?」
「んー?このマニキュア、ちょっと剥がれてるのが気になって」



スルリスルリと吹雪先輩の長くて冷たい指が群青の爪を撫でる。そういえばさっき何だか煩わしくてむず痒くて、少し爪の表面を引っかいてたっけ。そんなことを思い出していると、何処からかキュポンという音がして気がつけば吹雪先輩の片手には群青のマニキュアのブラシが握られていた。



「あれ、…先輩、それ…」
「さっき僕も氷里君に足の爪塗られちゃったんだ。その群青でさ」



そのついでにこれごと貰っちゃったんだよねと、俺の親指の爪に群青を塗りながら吹雪先輩が微笑んだ。子供みたいに嬉しそうに。



「僕とお揃いだね」



お揃いが嬉しいだなんて、吹雪先輩は俺が思っていた以上にまだまだ子供だ。でもそれ以上に、俺がその事実を知ってマニキュアも悪くないと思い直しているところを見ると、俺もまだまだ、まだまだ子供だ。

テーブルに置いたまますっかりバニラアイスの崩れたクリームソーダの色は、相変わらず熟れてない未熟な果実みたいだった。














冷たい彗星をマニキュアに浮かべましょう
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