人形パロディ
*注意

















「マスター」



そう呼ぶと、決まって寂しそうに笑う。



「『マスター』じゃなくて拓人って呼べって言ったろ?」
「あっごめん」
「…まあ、気にするな、ちょっと気付いただけだから」



それよりどうした?
そう首を傾げる拓人は何時見ても綺麗で洗練されていた。
少しバツが悪くなって顔を背けがちにそれを差し出した。



「…その、腕が、抜け落ちちゃってさ…」
「ははっそんなにならなくても怒らないさ。どれ、」



柔らかく笑みを浮かべて拓人は俺の左腕を掴んだ。(何でか何時もそこで恍惚とするのだけどそれは謎だ)
腕の無い、空気ばかりが通り抜けていく、空っぽの袖が揺れた。
拓人はまたゆっくりと今度は俺の左袖を摘む。あまり身長差が無い所為か、距離が詰められた。



「大丈夫、すぐ直る」
「…あー良かった」



オーバーに安堵してみせると拓人にクスクスと綺麗に笑われた。
こっちの気も知らないで!
そう思うと自然と唇が尖る。



「笑うこと無いだろ、最近頭が取れたり足取れたりばっかしてこっちはハラハラしっぱなしなんだ」
「……ははっ悪い悪い」



カクンと、『そんな話は止めよう』とでも言うように俺の腕が嵌った。
何だか妙な空気間を感じてふと見れば、拓人は乾いた笑い方をしていた。



「…た、くと?」
「悪いな蘭丸、その話は止めような」



ニッコリと、拓人が微笑んで俺の髪を撫でつけた。それから流れる水の如く俺を自分の膝へ導く。
そう、そうなんだ。拓人は俺の髪にやたら触れたがるのだ。俺を作ったとき、一番最初に拓人が触れたのは、このピンクの髪だった。まるで髪自体を愛おしんでいるみたいに。
そう、そうなんだ。拓人は少し変な趣味を持っているようなのだ。まあ、人形を創ってこうして愛でているのだからその時点でもうノーマルとは言えないんだろうけど。
言葉には些かし難いのだが、少々変わっている、のだ。多分、少しだけ。
考えたことが、ピンクの髪に落とされるリップノイズに遮断された。



「拓人はホント俺の髪好きだなー」
「まあな。いい匂いするし」
「拓人だって同じシャンプー使ってんじゃん」



ふとリップノイズの雨が止む。それから、



「それに」
「これだけは『そのまま持ってきたからな』」



ヒュッと、機能しているはずの無い喉が鳴った。声にはならなかったけど俺は「は?」と言った。
拓人には聞こえなかったようで、そのまま何時もの譫言を続けた。



「だって。だってだってだって、だってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだって、仕方ないじゃないか。しょうがないじゃないか、だってだって『霧野』が『冷たくなっていっちゃった』んだから。俺を置いて、さあ、あーあ、全く俺は落胆した、したけど妥協はしたんだ偉いだろ?あーあ、俺ってば偉い、肉体は諦めてやったんだからまだまだ、まだ、良いだろう、なあなあなあなあなあなあなあなあなあなあなあなあ?『冷たくなったら硬くなるから使えないんだ』だから生身の状態は諦めたよそうだよ嗚呼俺ってば無力!そうだよ無力無力無力無力医者も無力。だから引きちぎって引きちぎって引きちぎって引きちぎって千切って千切って千切って『複数の奴から似ているのをバラバラにして、選んで、繋げて』形は成した、無理矢理だなんて言わないでくれよ愛はあるんだあるからこそ出来るのさ分かるだろああ分からない?まあいいや、それで後、後後後後後、あ、と?中身だよそうだよ『そう、そうなんだ。』それだけ、それだけ、それだけそれだけそれだけそれだけそれだけそれだけ、後それだけ。たった、たったそれだけだったんだけど、案外簡単で容易で単純だったみたいで『霧野』を『彼方』から呼べたみたいなんだよななんだよなはははははははっあははあははは笑ったよ笑ったとも笑ったさ笑った!嬉しかった!感動の再会を果たしたんだからなあ?果たせたのには流石の俺も吃驚したさ吃驚仰天とか言うやつだったか?そうだったか?いやまあどうでもいいや、うふふあははあははははははははっ嗚呼こうして俺はまた『お前』と再構築ではあるけど愛し合っていけるよ」



この譫言、何時聞いてもよく分からない。一字一句も間違えずに同じように、乾いた笑みを浮かべて紡がれるこの譫言。よく分からない。



けど決まって聞いているとチリチリと刺さるような痛みが、有りもしない心臓部分に走るのは何でなんだ?














哀歌なんて詠わないで、聞きたくないわ
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -