よくあるよね、移動教室。それで、まあ何だか、男女が青春しちゃったりする噺あるよね?
否定するとかでは無いけど、今まで信じてなかった。そんなこと、リアルに存在するわけない。よくそういうドラマなんかの後に出てくるあれみたいに、『あくまでもフィクション』なんだ。
まあ、その考えはひっくり返されたのだけど。



(あ、まただ)



周りの生徒の談笑が飛び交ってノイズに成り下がった音が耳を通り過ぎる。僕は机の中に手を滑らせると、何時も乾いた紙が沢山擦れる音がする。これも今じゃすっかり板に付いてきた。
摘み出してみると赤い折り鶴が顔を出す。赤。次は黄色、それから肌色、緑、ピンク、青、銀、橙、それから、それから。

移動教室が終わると、僕の机に座っていた『彼』がこうやって沢山の折り鶴を残していくんだ。どうしてなのかは言語化してくれなくて、イマイチ確信とかは持てない。でも何となくは、ね。






「狩屋君ってホント手先器用だよね」



尖った八重歯でBLTサンドを噛み千切った狩屋君がくぐもったまま、は?と気の抜けたそれでいて怪訝そうに言った。うん、恥ずかしいのを隠してるだけなんだよね。



「ん?…ああ、あれのことか」
「うん、今日で99羽目じゃないかな」
「え、影山数えてんの?」
「うん、大切な物だから数えてるよ」
「何その基準」



ワケ分かんないと吐き捨てるみたいに言う狩屋君。所詮照れ隠しでそんなことを言ってるだけで、多分本人はそんなこと思っちゃいない。フェイクに咲いて枯れるのに過ぎない。
『言葉に出来ない』だけで。



「僕折り鶴折れないから凄いよ」
「そうかぁ?」
「でもちゃんと授業聞かないとダメだよ。一応前の方なんだし」
「だりー…話聞いてたら絶対寝るー」
「まああの先生眠くなるよね」



ガツガツと食べ終えた狩屋君は指に付いたパン屑やらマヨネーズやらをペロリと舐めとっていて、何処となく満足そうだ。
あの指先からカラフルな鶴が折られると思うと、頬が綻んだ。(しかも『僕の為に』)すっとその指先に手を伸ばすと気付かれてあっさり振り払われてしまった。くすん。



「何すんの」
「指舐めてるの、可愛いなあと思って…あははは」
「そーかよ」



きごちなくまた指先を舐めた。これはまたしても照れ隠しだな、なんて思っても言えないことを心中に吐き出しておいた。

狩屋君は自分で自分を『形にしか出来ない』と言った。ここからはきっと本人は気付いてないとは思うけど、僕は『言葉を形に成し得る』のだと思う。(所詮言い換えだだけだけど)だから僕は一度も八重歯の生えた口から『好き』だとか『ありがとう』なんか聞いたことがない。
代わりに折り鶴を折ってくれて、羽の部分に書き殴られてることが山のようにあった。僕は十分だった。



「好きだよ」
「あっそ」
「大好き」
「…ふーん」



狩屋君は紅くなる頬を放置してちょっと唾液に湿っているだろう指先で、へにゃりと草臥れた鞄から折り紙を引っ張り出した。
色は、藤色。あの、狩屋君の気持ちの形を成した大群に何時もちょこんと存在する、あの。
キョトンと凝視されているのも構わずに、器用な指先は羽、首、嘴、尾と形を創る。
もうすっかり慣れた手付き。また手慣れたようにシャーペンで何かを書いて差し出された。(何か、の内容を僕は知ってる)



「はい、100羽目」
「…あ、…えっ…う、うんうん!」
「祝100羽オメデトー」
「おめでとうだね!」



澄まし顔で(顔はほんのり紅い)そうおどけた。
藤色の折り鶴の片羽にあの『輝クン鶴』という筆記を見つけると口が動いた。



「大好きだよー狩屋君ー」
「っ、もう黙れよ」



ぶっきらぼうに言う狩屋君を引っ張って僕の鞄の中を見せる。中には溜まりに溜まったカラフルな折り鶴達。狩屋君の愛情表現の塊だった。
紅が更に深みを増した。



「ありがとう」
「…うん」



こうして僕の鞄の中は溢れんばかりの愛情で一杯になった。














ヴィヴィッド侵略大作戦

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テーマ「人外ファンタジー」
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