ついついやらかしちゃった。
言い訳をさせてもらえば、『子供の好奇心は抑えられない』っちゅーことを主張したい。うん、これ今度の…ええと何っていったかな、偉い首脳が集まって会議するあれ。
まあ取りあえずそんなカンジの会議の議題に挙げて欲しい。いやいや、くだらない意味もないことだからこそバンバン注目してほしいわけよ。分かる?



「あの、此処が教室だったら喜んで相槌打ちます」
「…あは、やっぱし?」



うらめしそうな目を向けられ本来持っているシチュエーションなんて限られたホースを向けられた俺は、もう笑うしかなかった。

よし言い訳は止めよう。
正直に言うと、俺が掃除中に巫山戯て遊んでびしょ濡れになっちゃったわけだ。そしたらその場に居合わせちゃった速水も巻き添えになって、只今プール掃除の刑を頂戴してしまった。全然嬉しくない!はい、包み隠さずに話した!
デッキブラシをスタンドマイクに見立てて叫んだ。気持ちよく叫びはまだ夏じゃないのに夏晴れした空に吸い込まれた。



「浜野君ちょっとは学習してくださいよー…」
「うっぷす!ごめん速水!」



覚え立ての平仮名英語を使ってみた。え、意味は特にないよ。
それにしても中学生って何でこんなに早くにプールやるんだろう。いや、別にダルいとかじゃないよ?寧ろ泳ぐのは好きだし不思議とあの塩素臭も好きだ。でもやるなら夏にやればいいのになあ。
速水に言われた通りの学習能力がまるでない俺は、去年の今頃と全く同じことを考えた。うん、これも首脳さん達で話し合ってくんないかな。
肩の力を抜いてブラシの柄をちゃんと握り直してプールサイドを擦った。しゃかしゃかと、何だよ、歯ブラシじゃないんだから!



「浜野君こっちやってくださいよ」
「うんうんー」
「ちょっ…そんな全力疾走で来なくても…」



乾いたプールサイドに水を撒いて(ちゅーかぶっちゃけ水を流してるようにしか見えない)速水が言われた。勿論全力疾走。ブラシを擦りながら走ってみた。なかなかユーモア溢れる走り方だ。サッカーに使ったら神童に怒られそうだけど。



「浜野君危ないか、ら」



ああ、ええと…ごめん速水。
言葉にしたのかまでは瞬間的過ぎて分かんなかったけど、反射で速水に謝罪した。変なところを学習した俺だった。
ドン、と身体がぶつかる。それから綺麗に二人して頭から


ドボン!


それからの言葉は発音しても空間に響かなかった。
あれっ?そんなの理科でやんなかったっけ?
入れ替えられた水に満たされた空間で思い出す。音は空気を震わせて伝わる。確かそうだったような。



「…プハッ!」



口から薄くなった酸素を入れ替えた。意外とそんなに焦りはしなくて呑気に呼吸した。吸って吐いて吸って吐いて。
要因は俺の左足がホースに突っかかったから。からの(また)速水を巻き込んで二人仲良く水中にいんとぅーだ。これはもう速水の体質が世間で言う巻き込まれ体質だからってのもあるんでないかな。うん。
俺が呼吸して1.5秒くらい後に目の前の水面に赤茶色が見えた。
つまり今のを1.5秒で考えたわけだ、わあ俺って実は凄い?



「…ッ」



無音だった。それとも息を吸うのが小さかったのか、よくわかんない。よくわかんないまま、俺の脳内が真っ白になった。え?



「…ハァッ…もう、浜野君の所為ですよ…」



細い体が空気を求めて小さく上下した。いや、それはいい。生きるには呼吸は大事だよ、そりゃあさ。それは、いいんだけど、いいんだけど。

水中に沈んだ速水の髪は下ろされていた。いやいや、水の重さでなんだけどただくたっとしてるわけじゃない。結われてないんだ。
おまけに目を覆っていた眼鏡もない。



「…はあ、もう浜野君聞いてるんですか?」



うん、聞いてる。よく聞いてる。チカチカと日光が速水を背後から差し込んで、プールの水に忙しく乱反射してて凄く綺麗だ。おかしいなあ今は夏じゃないよな?
水に入りながら眼鏡を探す度々に速水のほどけた髪が水面で揺れる。キラキラ自己主張の激しい光が目が眩む。
多分俺いつも以上に間抜け面なんだろうなあ。ちゅーか、あれだ。



「反則っしょ」



ポツリと零した。
ジャージのコバルトブルーが、ゆらゆら水面に浮かぶその様は何だかさながら人魚だ。勿論上には白いTシャツを着ているわけだけど、今の俺にはそんなのまるで無効だ。不成立。
速水は分からないと小首を傾げた。
ちゅーか、人魚ってプールにいるものだっけ?そもそも塩素水とか、大丈夫なん?



「…浜野君?」
「速水、人魚みたい」
「えっ?」
「速水凄い綺麗」



余すこと無く言ったら更に小首を傾げられた。



「日光とか逆光の所為なんじゃないですか」



速水が細い腕を水中から出して太陽を見た。キラキラと忙しない。
いや、どっちかっていうと水圧の所為じゃないかな。水圧、グッジョブ。あ、後日光とプール掃除の刑にした先生にも。

そんなことをして(俺が)惚けっていたら様子を見に来た先生に、二人して妙な視線で見られたというのは言うまでもない。














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