びりびりびり。
「おい」
びりびりびりびりびりびり。
「…お前聞こえてるだろ」
びりびりびり
「ら、蘭丸…」
物凄い勢いで振り向いた。俺が。
神童は自分で火種を撒いたくせに被害者みたいに飛び退いた。
「うわあ…相変わらずだな」
感心したような神童のささくれの一つも見られない指先がやけに丁寧にカウントしていく。そのカウントもさっきまでは一枚二枚だったというのに今や十枚を越してしまっていた。俺はどうでもいいように好きで貰ったんじゃないと呟いた。
「ちゃんと霧野『君』宛てだな」
「そういう報告いらない」
「ごめん」
畜生なんか悔しい。クスクス可笑しそうに笑う神童が更に俺に負けた感じを与えてくる。待て待て、負けるようなことしてないぞ。何だよ何時もは俺の下で喘いでるくせに。ほら、何時もなら俺の勝ちなのに。
「でもなあ」
「何だよー」
「こんな無残にしなくても良いだろ…」
神童は床に蔓延ったビリビリな紙切れに慈悲を向けた。神童がカウントしているのはまだ無事な紙束なのだった。
何故って、俺には不必要なものなんだから。
「いらないものはきちんと捨てましょうってな」
「…女子が可哀想だな」
「個人情報を守るにゃあシュレーダーに掛けるか、自らの手でビリビリにしちまうのがいいのさ」
「後付け感が凄まじいな」
ありゃあお見通しだったみたいだ。流石、こうも長く一緒に居ればそうなるよなぁ。
でも可哀想だなんて正直思わない。だって、興味無いものは興味無いんだ。直接言ってくる子にだってそう言ってるのに、噂だとかで伝わってるであろうにまた別の子が好きだと言ってくる。その繰り返しだ。鼬ごっこ。
そんな経験を繰り返している内に俺の中の理性がぷつりと切れてしまったわけで。気がついたらビリビリに引き裂かれたラブレター(だったもの)が床を散らかすことが起きるようになったのだった。
「だってお前以外眼中無いし」
「ちょっ…こら、ここ学校…」
「の屋上だろ、平気だって」
手元に溜まった紙切れを弄る手を惜しみもなくぱっと開いてまた紙切れを床に落とした。そのまま、飽きた道具なんかに目もくれないまま、神童に抱き付いた。
耳元で神童が溜め息をついた。
「霧野って本当に俺のこと好きなのな」
「愛してる」
「はいはい」
だからこの相思相愛に邪魔な念(これで邪念と書くと思うんだよな、俺の中では)をわざわざ読んだり保管したりしない。
ひゅぅ、と予測外に強い風が吹いた。引っ付く俺達を通り過ぎて通り過ぎて、紙切れを持っていって更にばらまいた。
成る程花吹雪みたいだな。あのカラフルでファンシー(だった)紙切れも偶には役に立つじゃないか。
そんな感じに世界と偶然に愛されている。
「綺麗だな」
「…普通の紙切れだったら綺麗だって素直に言える」
「優しいなあ」
女子達に王子様と呼ばれるのも頷ける。ラブレターもちゃんと読んで直接丁寧に断るんだから。まあそれで俺にお仕置きされるんだけど。可愛い可愛い。
「優しい神童大好き」
「…俺も好きだよ」
にっこり笑って、次は『にぃ』と意地悪に笑って見せた。神童がさっと身構えたけど構わず肩を掴んでバランスを崩させた。倒れ込みながらしたキスは何の味もしない。
でも、甘かった。
宿題はラブレターの書き直しです
有吹さんhappy birthday!