頭をやたら撫でられるようになった。此処に連れてこられてから、余計に。
沢山の掌がワシャワシャとだったりガシガシとだったりナデナデとだったり或いはサラサラとだったり、色々だ。れーなさんに至ってはそれプラス真顔で抱き締めてくるから反応に困る。よく分からない行動だった。
だって普通さ、



「畜生何で此処の大人はやたら頭撫でんだよ!」
「えーだってマサキ可愛いんだもん、ねー」
「「「「ねー」」」」
「なんだそのシンクロ率ぅうぅうう」



ヘラヘラと笑ったヒロにーがその他諸々に投げ掛けると大体の大人が反応した。そしていらない同意の言葉。(れーなさんまでも真顔ではあったけどしっかり頷いていた)
何なんだ此処の大人は。
俺が面白くなさそうに顔を背けると、今度ははるやの手がボスンと頭に乗っかった。重い。



「素直じゃねーなー黙って甘えてりゃいいじゃねえか」
「はるや重い!ガシガシすんな馬鹿はるや!」
「あぁ?」
「コラコラ南雲、もっと優しくしてやりなよ。だからマサキに呼び捨てにされるんだよ」
「ほっとけ!」
「無様だなバーン」
「呼ぶなガゼル!」



ガシガシワシャワシャと気遣いなんて微塵も感じさせない撫で方のまま、はるやとふーちゃんがくだらないガキ臭い言い合いを始めた。それはもうガキ臭い俺が呆れるくらいに。更にそこにヒロにーが茶々を入れてくるから余計五月蝿いし面倒くさくなる。(バーンやらガゼルやらって一体何の話だよ)だから環境内に俺を入れんなって言ってんのに。そういって、結局要求が果たされたことはないのだった。救いのリューちゃんも今は瞳子さんと買い物中でパーティー外だった。ガクリと肩が落ちる。



(やっぱり、此処の大人って変だ)



大人。オトナ。
俺が見てきた大人にこんな奴らはいなかった。頭を撫でてくれるなんてこともなかった。きっとそんな気持ちも暇も余裕もなかっただろう。ある人はやたら悲しそうに可哀想可哀相だなんて同情して、ある人は貼り付けた笑顔で俺を邪険に思って、最後には誰も俺を見ちゃいなかった。
置いて、いかれてしまった。捨てられてしまった。裏切られた。でも何時か母さんと父さんが迎えに、と期待してしまう自分がいた。でも日が重なり合う度思い知らされる。もうお前の迎えなど来やしないと。誰もお前を愛しちゃいないと。
11歳の俺は最初こそ信じなかったけれど、日が無情に重なり合っていくともう信念は事実にしかならなかった。
ポスン。
何時の間にかはるやの手が退かされて、代わりに今度は氷みたいに冷たい手が頭に乗った。ああ、これはふーちゃんのだ。きっと顔に出てたんだろう。



「…どーしたの、ふーちゃん」
「…マサキ」



あれ。さっきまでこの人ガキみたいに言い合いしてたくせに、今になって大人の顔をしてる。おいおい、今更そんな顔して声を出してどうしたんだよ。はるやはどうしたんだよ。



「ヒロトは気に食わないが、言っていることには同意するよ」
「…は?」
「いいかいマサキ。此処では大人も子供もない、皆が皆家族なんだよ」



さらさらとふーちゃんの冷たい手が俺の髪を滑る。なあにそれ、綺麗事みたいだね。俺は更に顔をしかめた。



「だから皆お前が大好きなんだよ」
「嘘ばっかりだね」
「嘘なんかじゃない」
「俺の知ってる『大人』は、みーんな嘘つきだよ」
「まあ、嘘をついたことがないと言えば嘘になるよ」
「ほら見ろ」



皆おんなじなんだよ。
聞いたこともないような優しい声のふーちゃんにそう言ってやった。何だかんだでこんなこと、話したことなかったかもしれない。
また、手が乗った。



「マサキ、そんな悲しいこと言わないでよ」
「ホントのことじゃん」
「確かにそうだけど、悲しいことと同じくらい楽しいこともあるんだから」



ヒロにーが笑った。
え、どうして此処で笑うの。何となくその笑顔が胸に刺さったから俺の目は直ぐに右に左に泳いだ。



「う…嘘つけ、俺にはそんなことなかった」
「今は、だろ?神様はきちんと分量を考えてあげてるから幸せが来ない人なんていないよ」
「神様ぁ?」



さっきから何言ってるんだよ。神様だなんてそんな非現実的な。そんなものを寄りによって俺が信じてると思ってんの?
俺はどんどん無愛想になっていった。俺が不都合になることばかり投げ掛けられている。俺が今まで逃げてきたことが、俺を虎視眈々と、狙って。



「やだなあマサキ。神様ってホントにいるんだよ」
「何それ、会ったことでもあるの」
「「「うん」」」



赤と紅と薄い水色が声を揃えた。えっ、と間抜けな声が出た。予測不能事例に遭った。
何で俺が墓穴掘ったみたいなことになっているんだろう。
何も言えずにいると、それまで大人しくしていたはるやがずいと俺の目の前に顔をやった。何かと顔の整った紅色である。それからチカリと光る黄金色。はるやが笑う。だから、何で笑うの。



「なーんてな。流石に宇宙人やってた俺らでも、神様にゃ会ったことねーよ」
「…も、もう訳わかんない」
「でもそれよりももっといい存在がいるだろ」
「……例えば、」
「友達、家族、仲間、その他!」
「………俺とは無縁だなぁ」



嘲笑って言ってやる。すればはるやは「そう、それ、それだよ」とニタリ笑いをした。あーあ、それ通常だったら俺がしてやる笑いなのに。
はるやが人差し指を一本突き出す。俺を指しているらしかった。まるで判決を言い渡されるように思えて、俺はゴクリと喉を鳴らした。



「そうやって全部諦めた目ぇしてたら、やってくる楽しいことも消えてくぜ」


消えてくだって?



「………サッカーも?」
「あ?」
「サッカーも、消えてくのかよ」
「……。」
「……、………じゃあ、…どうしたら、いいんだよ…」



何、乗せられているのだろう。何、絆されているのだろう。そう思っても泣きそうな息遣いは治らない。



「お前が変わればいい」



れーなさんが珍しくつられた目を険しくさせて肩に手をやってきた。怖くて目を向けられない。
構わずれーなさんは続ける。甘やかす気は無いらしい。


「お前の目はそんな狭い世界だけを見つめるものではない。周りに目を凝らせ。小さな幸せから大きな幸せまで幾らでも落ちている」
「…何だよ、それ…」
「怖がることはない。何故ならお前は『幸せになれる資格』があるんだからな」



丁度遠くでガラス戸が開く音が聞こえて、れーなさんはずっとそれを分かっていたみたいにスタスタ去っていってしまった。

やっぱり大人って嫌いだ。そうやって



「放り投げたら放置かよ」








なんて、思ってたときもあったなあ。我ながら分かってないない。













只今孤独ロケットが墜落中です

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