走れば。
走れば色んなもの達は無抵抗に過ぎ去っていった。誰も何も咎めずにグルグルとぐんぐんと通り過ぎていく。どうにもそれが苦手だ。走ることは勿論好きだけども。
パステルを着て走るアイツは気にしてなんかいないんだろうが。



「…どうして歩いてるの…」
「さみいよ」
「見て、綺麗な満月ね」
「……」
「どうしたの、そんな顔して」
「大丈夫だ、譲る」
「…?ありがとう」



冬花はそうやってナイチンゲールの如く笑うわけだ。ナイチンゲールは人間の方を言った。俺はなかなか賢明な判断をしたと思う。女に男は適わないとこういう場面で分かるようになったのは最近で、よくまあ丸くなったなと感心するわけだ。自分を。
冬花は太陽よりも月の方が好きなのとフワフワした、絶対中身が寒そうなワンピースを揺らす。くるりと回ってまた目の前に。こうやって男を絆していくんだ。女って怖い。



「太陽のが暖かくていいんじゃねえの?」
「そうなの?」
「いや、分かんねえけど」
「分からないの?無責任ね」
「理不尽だなお前。んなもん人の感性次第だろうが」
「開き直った」
「違えよ」



またクルクルと回ってはしゃいで歩いて、止まって、俺が追い付いて、また歩いて、止まって。
デートのとき、決まって冬花はこう言う。『明王君と一緒じゃないと意味が無い。』勿論直ぐ言い返してやった。そりゃあれだ、一種の気の迷いだ。経験が浅いから、お前は何も見ようともせずにそう言ってるだけだ。
泣かすと思った。でもそれはそれでコイツに良い教訓でもあげられるんじゃねえかと思ったし、それでいいって思った。ら。そうじゃないとばかりにコイツが俺をひっぱたいた。俺が、コイツにひっぱたかれたんだ。ひっぱたかれた瞬間に馬鹿馬鹿って罵倒も喰らった。あーかもしれねえ、なんて自覚した。この腰抜け。こうして冬花は逃げようとした俺を掴んだわけだ。まあ俺らは月と太陽じゃねえんだ。



「月が綺麗だな」
「月が綺麗ね」



キョトンと互いに見つめ合って、妙な空気になる。事は成り行きだ。道路にいる俺達の位置に少し距離があったのを冬花から縮めて、よわっちい白い手が肩に掛けた。



「いいのかよ、それで」
「何度だって答えるよ。明王君じゃないと意味が無いんだよ」
「お前さえ良いならいいんだけどさ」
「私がそう思ってるんだもん」



にこりと崩れた綺麗な顔が月光に当たってよく栄えた。丸い月は明るくて、近くにある蛍光灯になど負けるようなこともない。月は、明るい。 冬花は、綺麗だと正直思う。俺じゃないとと言ってくる物好きな女。それが久遠冬花。



「…お前自身は太陽だろうな」
「そう?よく分からないけど」
「分かんなくていいっつの」



そんな感じに真っ正面から冬花と視線を合わせて短く唇をくっつけて一言。



「「冷たい」」



暖めるか聞くとふにゃりと笑いかけられた。
そのあったかそうな笑顔に、君は俺だけの太陽だなんてことは言わない。
冬花のことだし、きっと変に調子に乗りそうだ。














きっとお慕いしておりますわ
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