あんた、馬鹿だよ。大馬鹿。馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの嗚呼馬鹿。



「ごめん、ごめんな」



謝ったってもう遅いやこんの馬鹿野郎。俺はそんな言葉が欲しいんじゃないよ神童様。



「…っ馬鹿だよ…何だよ神様の癖に…!神様の癖に!…っうぅうう…!」
「ごめんってば、もう泣くなよ、な?泣かないで」



なんて奴だ!こんなにしたのは誰だよ!何処の神様だよ!あんたじゃないの!
力一杯そう吠えてやった。俺の涙にまみれてデロデロになったみっともない叫びが、遠く遠くに広がっていった。誰にぶつかる訳でもなく何にぶつかる訳でもなく、誰にも何も与えないまま飛んでいく。俺は与えられない。
そう思えば思う程涙が止まらなかった。



「おれぇ…っ馬鹿なんだから、耐えれるわけ無いじゃんかあ…」
「……」
「ひきょー、ものお」



こんな尊い存在相手に罵倒するは罰当たりだと分かってる筈なのに、口が走る。走って走ってカーブを曲がりもせずに走った。何度も何度も神童様にぶつけた。早く止めればいいのにこの人はごめん、って言うだけ。



「うっうぅ…それしか言えないの…」
「…ああ」



キュッと自分の首が絞まった。絞めてしまった。そうしたのは誰?紛れもなく、俺なのに。
馬鹿な獣だなあもう。嫌になる。
言葉にも尽きてきて疲れた舌の状態を察したように神童様は絶妙なタイミングで話し出した。貴方のお声が聞きたくなった、丁度そのタイミングに。



「悪い。でもこういうのが、俺の性なんだよ狩屋」
「……こういうのっ、て、なん、だよお…」
「救いには自分を犠牲にしなくちゃならない。俺は神様だからそれをこれからも、昔からもやってきた…やっていかなくちゃいけないんだ」



申し訳無さそうに話すクセに口調には乱れもなくって何処か、あの神聖なままだった。申し訳無いと思っていながらも、強い。



「…あんたは、」
「…」
「あんたの気持ちは、何処にいっちゃ、う、のさ」
「…、」



何処にもいかない。きっとそう言っただろうなあ言うだろうなあ。でも聞いてあげない。
そうしたらきっときっと困った顔するんだろうなあ。でも言わせてあげた。



「俺の気持ちはいかないよ」



いけないよ。
そう、優しい声色が俺に突き付けた。



「…そうやって助けてばっかで、う、ぅうう…助けてもら、えないの…」
「ああ」
「狡いよ」
「でもこれが神様っていう救済のメカニズムだから」
「それでいいの…」
「どうにも出来ない」
「…俺の事好き?」
「愛してるよ、」



これだから、俺には向いてなかったのかもしれない。
うん、向いてないよ。
そう、泣き疲れた俺はポツリと返した。神童様はまた困ったように笑った。
顔を上げられないままでいると、顎の辺りに暖かい何かが触れた。
ああ、あんだだな。



「…顔、あげてほしい、な」
「よく今まで泣かずに我慢したよ、ね」
「…、褒めてくれるか」
「うん、偉いね偉いね」



撫でれば嬉しそうに死にそうな小さい声を漏らす。でもあんたは死ぬことも無い。生きているとも言えないの。
この泣き虫な神様は泣き虫なクセに誰にも、慰められたことも頭を撫でられたことも無いといった。
神様って寂しいんだね。言えばそれが真理だと泣く泣く。見たこともないくらいにあんまり泣くからまた泣きたくなった。ズルズルと、疲れて力が抜けた。



「ごめん、…な、さ、…」



首を横に振られた気がした。



「お前が生きててくれれば、それでいいよ」



食べちゃってごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
ほら。あんたも食べちゃ駄目だろうって、ほら、ちゃんと叱りなよ。お腹の中で見えない筈の目が儚く見開いた。














例え君が僕を忘れてもぼくは私は
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