目が、覚めた。凄く夢見が悪い。そのクセどんな夢だったかを忘れていた。きっと目を開ける前の俺は知っていたのだろうけどその俺はもう昨日に歩いていってしまった。だからもう思い出せなかった。



(大事な何かだった気がしないでも、ない)



ふと隣に眠る南沢さんを確認しようと目を向けた。ぼんやりと見ただけであったけどあの華奢な体がタオルケットにくるまっていて安心した。長い前髪が無造作に彼の目を隠している。



「……った」



乾いた声。寝ぼけたのか南沢さんの渇ききった口がそう言った。水を一杯持ってこようかな。

でも何が『良かった』なのか、よく分からない。
あ、思い出せそうかもしれない。




「おはようございます」



目を今日初めて開けたときには低血圧過ぎて挨拶が返ってきそうになかったから、南沢さんが水を飲み終わってから言った。それでも南沢さんはこくん、と頷いただけだ。少し様子が可笑しいように思った。



「眠れましたか」



間を開けて頷いた。あまり眠れなかったようだ。無理もない。前提していたことだったし。



『まあ、典人が誰か連れてきたわ』
『ありゃあ誰だ?変な目だなあ』
『綺麗だが男の子かな、女の子かな』
『友達には見えないね、先輩?後輩…は、ないな』



もう一杯水を飲む南沢さんを眺めていたら部屋の物達がざわめき始めた。ああ、起きてきたか。この時間に人を通したことがなかった(通したくなかった)俺はつい顔をしかめてしまった。
失礼なヤツらだなあ。

逃げるように南沢さんの手を引いて部屋を出た。それ以上に、この人を好き勝手に否定肯定されたくなかった。




「………」
「…あの、南沢さん具合悪いとかなんですか?」



ふるふると首を振った。



「……」
「……」



こんな調子だった。だんまり。何も喋らないのだ。
くてっと体から力を抜いて解凍したカルボナーラを食べていた。ホントだったらもっと聞きたいことなんて沢山ある。有り余ってる。でも場を読む、以前にどうしたんですかって聞きたい。でも何か言うと南沢さんを傷付けてしまうような不必要条件が作られていた。言葉っていうのは間違えば凶器にも成れる。それをよく知っていたから、とも言えたけど。
生暖かくなってきた空気が詰る。だからってそれに乗って焦っても当たってもまた繰り返すことくらい、学習していた。



「………………………南沢、さん」



現代、コミュニケーションは双方向性であったのに何時しか一方向性と化したとかなんだとか。それが問題?こういう場合が生じるからなんじゃないだろうか。そんなことを思って彼を呼んだ。



「怖いんですか」



返ってこない。けどフォークを置いた。俺は続けることを選択した。



「別に、直ぐに全部話してくれとは、言いません。待ちます。でも」
「だんまりされると、その、」



生憎伝えることに関しての成績は良くない俺だった。



「やるせない、っていうか…寂しいです」
「……」
「何も言ってくれないんですか」
「……」
「何も、言わないんですか」
「……」



彼の眉が苦痛に歪んだ。握り込んだ拳がカタカタと握ったり解いたりを繰り返している。首がさらに下がると握り込む力が強くなる。痛いのに、南沢さんは何も言わない。

…話が変わる。人間っつうものは精神的肉体的苦痛や負荷を受けるとその対処策となる行動や思考をする。現実逃避なんて良い例だ。



(でもこの人はこうやってきたんだ)



口を塞いで、きたんだろう。そう、しなちゃ、いけなかったんだろう。
構わない。続ける。



「俺、今回のことから、あんたを守りたいとか、思ったんです」
「……」
「未だにあんたに抱く感情が愛とか恋とか言うのかは分かんないです。」
「でも、守りたいって思ったんだ」



でも、この世界はあんたには生きづらい。
それは言わなかった。
南沢さんは暫く何も言わなかった。長いようでそこそこな時間を通り過ぎて、長い前髪が垂れ下がった。それからパタパタ零れたビー玉みたいな大粒を拭いもしなかった。



「俺じゃ『嫌』?」



首を振った。良かった。
そこで俺は夢を思い出せなかったけど、言いたかったことを思い出す。



「南沢さん、助けてって叫びなよ」



嗚咽が聞こえてきた。何かの合図なのかな。嗚呼、終わる余興なのかな。



「……お前じゃないと、駄目だって」



同時に小さい小さい声で助けて、と聞こえた。

嗚呼、やっとあんたのホントが聞こえた。知らないだろうけど、あんたの声だけ聞こえないのは寂しかったんだ。














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