え、と我ながら引きつったようなぎょっとしたような声が、俺の喉から這い出て口から零れ落ちた。ぐるぐると脳内を働かせて俺は目の前の現実と向き合った。



「南沢さん、」



そう呼び掛けるとビクリと小さく肩を揺らされた。立ち止まってはくれてるけど、一向に此方に視線を合わせてくれなかった。渋々妥協して投げかけた。



「その右目…の、眼帯は…」
「…ああ、これな」



南沢さんが何てことないように呟いて、眼帯をスルリと撫でた。細い白雪の指が眼帯を滑る。



「最近寝不足で、ボーっとしてたら壁にぶつかったってだけだ」
「…そうっ、すか」
「そ、そんだけ」



視線は合わされないまま、ゆらりと彼方を向いて南沢さんは校門へと歩いていった。その足取りはまだ方向感覚が掴めていないのか、妙な違和感を抱えて引きずられていた。



「歩き方、可笑しいだろ?」



不意に頭上から男声が降ってきた。俺の体はそれに反応する気がないらしく、ただ単に体を其方に向けるという命令に従っただけだった。



「三国さん…」



条件反射でそう呼ぶと何故か困ったような笑顔をされた。何故か、何故か。



「どうやら無理してたみたいでな。前に作った傷が痛むらしくてあんな歩き方してるんだ」
「…南沢さんから聞いたんですか?」
「…昨日歩き方について問い詰めたら、そう言ってきた」



『昨日』。
嗚呼空しくなってきた。俺達の間を登校中のクラスメートやらが無慈悲に無知に通り過ぎていく。仕方ないんだけど、見てると更に空しくなってきた。



「南沢を頼むな」



突然そう言って三国さんが温かい大きな手で俺の頭を撫でた。何だか意味深な顔で続ける。俺は何も言えない。言えていない。



「きっとお前にしか出来ないからな」
「どうして断定できるんです?」
「…勘に近いな」



勘だけで断定も限定も組み込んだ事を言えるのだろうか。そんな重厚な言葉を掛けて歩いていってしまった三国さんにそれを伝える術は、その時には思い付かなかった。






そしてそんな俺に突きつけるかのように、その次の日から南沢さんが学校を休んだのだった。














自刃は誰に向けられた?
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