それは穏やかな波紋のように、凜とした歌声のように、轟く衝突音のように、俺の中に入ってくるんだ。俺はそれが苦手だったんだけど今となってはどうすることも出来ないから、俺は思考するのを止めた。



「…聞こえるだけだもんな」



俺の呟きは車両のクラクションとタイヤがアスファルトを擦れる音に消えた。



「お前のそれってホント、不便だよな」



そんなの、俺が一番良く知ってますよ。
俺は南沢さんにそう返した。無意識に声が低くなった。



気付き始めたのは小学校入学してすぐだった。最初の頃は妙な感じがして気持ち悪かった。何でかって、そりゃ目の前で俺に謝ってる奴から「何で謝んなきゃなんないんだ」なんて喚き声が聞こえたら、誰だって気持ち悪いだろ。案の定お前何言ってんだって叫んだら、また喧嘩になったのだが。
可笑しいな、なんて思ったら今度は花壇の花やら雑草から話し声が聞こえてきて、俺は盛大に水で満杯の如雨露を落とした。だって!目の前で花が「最近私のとこだけ水がこない」だとか「なかなか根っこまで抜いてくれない」とか言ってたら驚くっつーの。

どうやら俺には生き物の心が声になって聞こえるらしい。要は心を読めるってことらしかった。

最初はなかなか面白かった。友達の好きな人は簡単に分かるし、ムカつく奴の弱点だって丸見えだったし、気になる女子のことも分かったんだから。でもそうじゃなかったんだ。そうじゃない。
本音が見えてしまうということを、完全に俺はなめていた。
俺がこれを便利だな、なんて思ってた矢先、ドンドンそれは覆されていった。
女子が喧嘩した友達に「もう気にしてないよ」なんて言いながら、聞こえてくるのは怒りの言葉だったり。
「先生はこのお仕事に就けたのを誇りに思う!」と口癖みたいに言う熱血教師が実は毎日毎日「こんな仕事がしたかったんじゃない」と愚痴を吐いていたり。
そんなに関わりのないクラスメートからいけ好かなくて嫌いと、すれ違うたんびに聞こえてきたり。

俺はこの力が凄く嫌になった。
見たくないものまで見えてしまう。聞きたくないものまで聞こえてしまう。考えたくないことまで考えてしまう。
正に『生き物の本質』を見せつけられてるみたいだった。自分で言うのもあれだけど、ドンドン性格がひねくれっていった。

中学に入って、元々好きだったサッカー部に入部した。クラスに浜野と速水という人生初の、『嫌な心』がない友人も出来た。
この妙な力は相変わらずだったけど、チームメートやら友人のお陰で少し気にならなくなった。


ただ、この力の対象に例外が一人いた。
















僕は僕を補うんだ
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