目の前で神童先輩が泣いていた。
最近ちっとも泣かなくなって違和感を感じてたのに、急にどうしたんだろうね。
後それから、目の前で小さな鳥がぐにゃぐにゃになって死んでいた。あ、ううん、まだ、生きてる。虫の息だけれど微かに翼が痙攣してる。白い折れ曲がった可哀想な翼だった。
わあ、生き物って凄いんだね。これには素直に感動した。嘘じゃないよ。



「……っ…ぅう………」



シクシクと瀕死の小鳥の元にしゃがみ込んで泣いている。目線を小鳥と近付けている。神童先輩は『わざわざ』近付けている。今彼が流している涙は、小鳥の為に流れている。涙は含んだ塩分を感じさせずに土の色を変えた。



「どうして泣いてるんですか」



なんて、愚問をしてみる。神童先輩はゴシゴシ痛々しく目元を拭って、それが愚答だっていうことにも気付かずに答えた。



「……っうく、……可哀想だ…と、……思ってな…」
「その鳥が?」
「…そうさ、だって、…っ…もう、…骨格が曲がって飛ぶことも出来ない、そもそも…生きるための力も残っていない…この子には、終わりしかないんだ……」



綺麗な涙。
それは、もし此処にいるのが俺ではなかったなら純粋に人に悲しみを呼んでいるであろう涙。悲しそうに可哀想に流れたその涙を俺は『悲しい』だけでは感想をまとめられる気が、しない。丸い背を見ていた俺はゆっくり近づいて回り込んで小鳥と視線を合わせてみた。もう生きているとは言えなくなってきていた。痙攣も小さくなって、虫の息という言葉を0.5倍にした言葉で言った方が見合う。
鳥は言葉を知らないから、力が無いから、迫り来る終わりに何の抵抗も出来ない。神童先輩はそれが可哀想だと泣いているのだ。俺は全く可哀想とは思わないなんて言わないけれど、それよりも沸々と起きる気持ちで頭が一杯だった。
ポタポタ、鳥の翼に涙が落ちた。
あー耐えきれないよ、鳥さん。



「ねえ神童先輩、俺が、この鳥さんを踏み潰したら、貴方は泣きますか」



あ、綺麗な涙が落ちない。先輩を見ると頬に涙の跡と伝っている涙を携えて、顔を蒼白にしていた。『信じられない』、そんな目で。
まあ、信じられないよな。俺も自分で吃驚してる。なんて、冷たい声なんだろうってさ。嘘じゃない。



「…なんてことを……」
「しませんよ、例え話です」
「だからって…」
「俺の例え話の中でも死んじゃう鳥さんが可哀想ですか?」
「そんな問題じゃないだろ」



涙目で怖くはなかったけど、神童先輩は怖い顔した。そしたら少し脳内の血液がヒヤッとした。泡を立てて煮詰まった血液が、冷やされてく。火力は所詮下らないもの。



「ごめんなさい、嫉妬しただけです」
「…」
「だって、そんなに綺麗な涙を自分の為だけに流されてるだなんて羨ましいんですよ」
「…」
「踏み潰す勇気も無いですし」
「…勇気はなくとも、…気持ちはあるだろう」



かも、しれませんね。言えば神童先輩はだろう?と目を瞑った。溜まった涙がホロッと落ちた。小鳥はもうピクリとも動いてない。俺は白い羽に包まれた小さな体に触れた。まだ少し温かい。触れた瞬間神童先輩は焦ったように目を見開いたけど、体を撫でるのを見て動かず黙って見ていた。



「お前、幸せだなあ。あんなに泣いてもらってさ」
「…ぅ、」



神童先輩が恥ずかしそうに眉に皺を作った。



「お前、あんな綺麗な涙見たことないだろ?ねー?でも連れて行ったりするなよ、そんなことしたら許さないからな。」



って釘を刺して、そっと小さな体を手で掬って土に埋めてやった。神童先輩は心配そうに見ていたけど、さっきより警戒は和らいだみたいで安堵した。
哀れな鳥の埋まった土を神童先輩が撫でて両手を合わせていた。暫くするとまたポロポロと涙をこぼし始めた。



「…神童先輩はとっても、優しい人ですね」
「…っひく、………天馬は時々怖いことを言う、な…」



指で伝う涙を払って、舌で溜まって零れそうな涙を舐めた。先輩は何時まで経っても慣れてくれなくて、頬を赤くしながら目をぎゅっと瞑って耐えていた。なんていじらしくて可愛いのか。
どうだ、俺はこの人の涙の味を知ってるんだぞ。悔しいか、なんて子供じみた優越を心中で叫んだ。
内緒だけれど。



「ねえ神童先輩、俺が死んでも生きてても、泣いてくれますか」














神様の軟骨

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