*37話辺りの噺(新雲学園戦前のあれ)



















行けばいいのだろうか。喜んだ方がいいんだろうか。ああやって天馬や西園みたいに、後輩らしい反応をした方が良いのだろうか。



(…?)



でもそれは、俺にとっては、何か、違う気がする。




急に且つ不意打ちに南沢さん達は雷門にやってきた。話を聞けば雷門に強くなってほしいとの事で、激励を兼ねての特訓をしに来てくれたらしかった。まあ有り難い、というか照れ臭い、というか。確かにそんな気持ちも勿論あったわけだが、どうにも素直に表せられない。排水口に何かがつかえて水が流れていかない。



(まだ赦せてない、?訳じゃない、よな。そもそも許す許せないの話じゃなかったし。じゃあ何だ、この感じ)



俺は可愛げもなく天馬達が無邪気に群がる様を見つめている。あれ、何か、何か、納得出来ない。この風景、何か違う。
こんな筈じゃ、なかっただろう?



「行かないのか?」



変な汗を掻いてしまった。やだな格好悪い。でも優しいこの先輩の事だ、きっと触れないでくれるんだろう。控えめに汗の滲む頬を掻き拭った。



「うーん。行かないっていうか、行ったら何か可笑しいっていうか」
「うん?」



三国さんはもう話を聞く態勢なのか、それはそれは優しく聞き返してきた。母かこの人は。



「…俺、上手く話せませんよ?」
「話すだけでも楽だろう?」



少し距離があったのが気になったのか此方が嫌悪を感じない歩幅で歩いてきた。サッカーを含めても尊敬する先輩だが、こんな細かい気配りが出来る面に於いてもそれ以外に於いても尊敬に値するのだから頭が上がらない。
でもきっと目星は付けられている気がする。



「…『これ』、なんか可笑しいなって思うんスよね」



可笑しい。
俺の目がまた群がる後輩に向く。
だって、可笑しい、やっぱり可笑しい。こんなこと今更言ったって本当に今更で何をまた、なんて片付けられてしまいそうだ。でも言わずにはいられなくなった。『溜める』のには限界が決められるのが摂理だ。



「だって、だって。あの人は、雷門イレブンだったんですよ?」
「だったら可笑しいですよ、何であの人、こっちにいないんでしょうね。いや、凄く、凄く今更なんですけどね、ホントに今更、なんですけど」
「こう、なんつーか、あの人が『応援してる』ってのがどうも認めたくなくて…」



バラバラと、本当に言いたいことだけを並べた。あまりにもバラバラで纏まらなくて、俺自身でさえも何が言いたいのか分からなくなりそうで、脳味噌が沸騰しそうになった。あ、今蒸気が上がってら。
でもこれ以上加工しようにも技量がないので無理だ。



「忘れてるわけ無いんです。あの人とサッカーやってたこと、でも、忘れかけてる自分が、嫌、なんです…」



まるで最初から此方になどいなかった。そう書き換えられているような、そんな自分の脳内が嫌だったんだ。何時からかうちの10番は剣城になって、段々違和感も無くなって、馴染んであの人の紫が霞んでいった。周りは忘れても俺は忘れないと思ってた。



「可笑しいっすよね、忘れかけてるとか」



言い終えても三国さんの顔は見れなかった。元々見れる気なんか起きなかった。きっとそれが誰だろうとそうだったに違いない。
三国さんは暫く南沢さんをじっと見据えて、それから交わされないのに俺の顔を見て言った。



「良いんじゃないか」



何だって?、と思った。



「良いんじゃないかって…」
「倉間、南沢が好きか?」
「えっ……………ああ、まあ…」
「ならそうなっても可笑しくなんかないさ」



三国さんはやけに晴れ晴れとした声で続ける。



「人間、そう創られてるんだ。全部覚えてたらパンクするだろ?そうならないように適度に忘れるようになってるんだ。それが些細なことでも大事なことでもな」
「…可笑しくないですか」
「可笑しくない。寧ろ、人間の記憶だとか感覚に正常か正常じゃないかだなんて言ったらキリがないぞ」
「………まあ、そうですね」
「好きな奴のことでも、忘れることは幾らだってある」
「………忘れたくないです」
「ならまた思い出を作ればいい。それに、お前がそうみすみすと南沢を忘れる筈もない。好きなんだろ」
「…はい」
「忘れる忘れないを気にするより、あいつを真っ直ぐ見ててやれ。顔にこそ出さないが、あいつだってきっとその方が嬉しいだろう」



ニコニコとした三国さんにポンと肩を叩かれて何だか難しく考えてた自分が馬鹿らしく思えた。わざわざ難しく考えるとか、俺らしくもない。
するとまた肩を叩かれた。手の主は兵頭だった。どうやらずっと傍で話を聞いていたようだ。戸惑いながら目を向けると、また黙ったまま肩を叩かれてふいと視線を南沢さんがいる辺りに飛ばした。何も言わないので何がしたいのかはサッパリである。



「…」
「…?」
「…」
「…??」
「行ってやれってさ」
「えっ」



三国さんが通訳した。
だったら喋ればいいだろ。
さっきからずっと逸らしっぱなしの自前の三白眼を向けると、丁度キャラメル色の目も此方を向いていた。
思わず、二人揃って笑った。



(考え過ぎた!)














エリザベスもアレックスも皆人間です

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