「今日も空は青いな」



快晴の下、神童は呟いた。雲一つ無い、正にあのガガーリンが『地球は青かった』と発言するのに値する空色だ。ぼんやりとしたチョコレートカラーの瞳に隣に立っている天馬は爽やかに投げ掛ける。いつもの、微風のような爽やかな口調で。



「キャプテン、ちっともそんな事思ってないですよね」



作りもしない素の言及だった。さっきからフォーメーションの陣形の書かれた再生紙から目を離さなかった神童は、此処で初めて天馬の顔を見たことになる。



「…何だその顔は」
「キャプテンだって同じ気持ちでしょー」



天馬は爽やかかつ元気な口調とは裏腹に、何ともあどけない不機嫌丸出しの表情である一点を見つめていた。呆れてはいるが、神童こそそう言う手に力が入って、綺麗で滑らかな再生紙が一部分無惨にもぐしゃりぐしゃりと握り潰されている。何とも資源が可哀想なことになっているのである。しかし当の本人は無自覚であるからか指摘する人間はいない。天馬を除いては。



「そんなことより見ろ天馬。今日は快晴で絶好のサッカー日和じゃないか」
「…白々しいですよキャプテンー」
「…何のことだか」
「言ってることに中身が無いですよー」



天馬の指摘はその通りだった。フォーメーションの指示をしている際に用いる言葉も、今口にした言葉も何時ものような『中身』が存在しない、如何にも神童の異常を仄めかすような言葉ばかりだ。
残念ながら今の神童は自分が墓穴を掘っていることに気づいていなかった。
天馬は誤魔化しを続行する神童の頭を掴み、(失礼します!と言葉は掛けた)自分が見つめていた『ある一点』に半ば無理矢理に首を向けた。



「…キャプテン何処向いてるんですか」
「至って普通だぞ」



天馬としては90度に動かしたかった首だが、神童はそこにさらに90度足して180度回ってしまったが為に天馬は現在神童の後頭部と会話している。



「んもーあの二人何で仲良しなんだろ。キャプテンも霧野先輩に言ってくださいよ!『狩屋とくっつくな』って!」



チョコレートカラーに光が入ってちらりと一点に目を向けた。が、一瞬にして背けたくなった。
ある一点、というのは丁度ディフェンス陣が配置されたエリアでさらにそれの一部分。やけにカラフルな髪の色と色が仲むつまじそうにじゃれ合っている情景だった。平然としていたように見えた神童も少々苛ついた表情になりかけている。



「ほらイライラしてる」
「してない」
「オマケに涙目です」
「泣かない」



天馬の指摘に否定的な神童だった。
霧野と狩屋。同じポジションのディフェンダーでどうやら多少のトラブルがあったみたいだが、今となってはなかなかのコンビネーションを見せるようになった。チームとしてはそれは嬉しいことだ。戦略の幅も広がるし、共に戦ってくれる仲間が出来るのは有り難いことなのだ。
視点を変えてみよう。恋人としたらそれは、とても複雑な話でもある。コンビネーションが増えるというのは信頼関係が良好になるわけで、ポジションが同じというのは傍にいる時間が増えるわけだ。例え霧野に神童がいて狩屋に天馬がいるとしても分かっていても、嫉妬がしなくなるわけではない。かくしてこの二人は最近嫉妬に苛まれている。
視界に入っていた霧野と狩屋は鬱々と、苛々としている神童にも天馬にも気付いてないようでどこ吹く風だった。挙げ句の果てにはどういう経緯なのかは謎だが霧野が狩屋の頭を撫でて雑談を続け始めた。狩屋はつり目を少し下げて気持ちよさそうに話を続ける。また霧野もそれに癒されているように頬を綻ばせた。



「あれ、何ですかね…可愛いんですけど凄く悔しいというか…」
「仲良しでいいじゃない、か」
「悔しくないんですか!」
「いや別に」
「…………。」



神童の穏やかな視線は消えていた。代わりに愛おしげな目をしながらも嫉妬を奥底に燃やしている。総合するととても複雑そうに顔を歪めていた。天馬はああ、この人こういうのには不器用なんだと何てこともないように思った。



「「あ」」



撫でられていた狩屋が今度は霧野の頭を撫でた。勝手に台詞を補うとしたら『仕返し!』とかいったところだろうか。瞬間神童がふるふると小刻みに震え始めた。



「…俺だって霧野撫でたい…」
「うわあ」
「よし、もうプライドは捨てるぞ。天馬、お前は狩屋を左に引き剥がせ。」
「え」
「俺は霧野を右に引き剥がすからな、頼んだぞ」
「…え、えーっと…はい?」



天馬は戸惑いながらも何だかんだで神童に合わせて試合中と同じような走りで駆け出した。彼らの中で何かが爆ぜた。しかし、そうなると此方の状況を全く理解出来ない(そもそも神童達の視線に気付いていたかすら分からない)霧野達がキョトンとするのは目に見えた。ぐんぐん自分達に近付いてくる弾丸をどう対処するべきなのかさえ分からない二人は顔を見合わせた。
そしてほぼ同時に二の腕を掴まれ左右に散らされた。



「し、神童?」
「……」



光が消えかかった目は恨めしそうに狩屋に向いていて、霧野に返答することを放棄させている。玩具を盗られた子供は返ってきた(取り返した)霧野にもう離さないと言わんばかりの抱擁をした。



「天馬君…キャプテンに何かしたの?凄い睨まれてんだけど」
「狩屋が霧野先輩と仲良しだからじゃないの」
「……そんな理由であんな全力疾走しなくても…」
「嫉妬するよ!俺だって狩屋撫でたい可愛がりたい!」



取り敢えず二人の嫉妬が治まったのは良しとする。他のメンバーはというとキャプテンとサポート役が使い物にならないことを察すると、此処にいないものとして目を機能させた。













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