よくもこう『ニコニコと』梔子やら白百合やらが咲き乱れるように笑えるな、と思う。別に作意在ってのことでは無いとは言え俺としては複雑だった。どうせなら思いっ切り悪い顔をして笑ってくれた方が釣り合ってるよなぁ。



「…南沢さん…」
「何」
「いや、どうかしたのかと思って…」
「失礼だな、ちゃんと本心だし俺だってそうしたくなるときくらいあるっつーの」



ニコニコ笑顔を少し引きつらせて、南沢さんが前髪をくしゃりと引っ張った。これ、本人は気付いてないけど南沢さんが照れ隠しをする際にする癖だったりする。言わないけど。



「何、もう一回言った方が良かったり?」



いや、いらない。また言われたところで困るだけだ。全力で拒否したいところだったが、南沢さんのニコニコとした綺麗な笑顔に流されてしまった。やっぱりこの人確信犯なんじゃないのか?



「お前のこと、メチャクチャになるくらい甘やかさせてくれない?」



これは可笑しい。この逆だったとしたら大納得するけど与えられるのは、俺だ。
可笑しいのはこれだけじゃない。いつもなら「アップルティー買ってきて、冷たい奴」だの「あの期間限定のカレーパン食べたいなぁ」とチラ見されたり「あいつこっち来させないようにしてきて」だの容赦ないお願い(つかパシリに近い命令形だよな)を繰り出してくるのに、今日は一体どういうことなんだろうか。
ピシリ。南沢さんのキャラメルの瞳が俺を追いかけてきた。この種類はあれだ、お願いって意味を汲んだ視線だ。(これお願いっていうのか?)そういうのやめてほしい。結局動く羽目になって悔しくなる。
吹っ切れれば、そんなことは、ない、けど。
俺は両手の平を均等に見詰めて南沢さんに向かって両手を開いた。



「……、どーぞ?」
「そうくるか」



南沢さんにしては珍しくあどけなく笑って、肋骨の隙間に指の一本一本を組み合わせるように俺の背中に腕を回した。ゾクッとした。だって肋骨の隙間って人間の急所なんだぜ?俺も人間なら急所を侵されて本質が何も喚かないということはない。



「何か、触り方まで甘ったるくないですか」
「ワザと。何時も尽くしてもらいまくりだから偶にはなーとか思ってさ」



因みに南沢さんはそんな俺の様が好きなようで、俺がそれに調子に乗る辺り何とかしたい。悔しい、絆されてる。確実に、ジクジクと。



「まあ?お前も何か甘えたかったみたいだし」
「はぁ?何言ってんですか」
「あー無自覚だったりする?それなんて確信犯だよ」



いやいや、それはあんたに言われたくない。しかも何だ、甘えたかったって。
俺は少しむっとして弱い力で南沢さんを押し返した。南沢さんは少し吃驚したように目を開いてあっさり離れた。あれ。



「…へぇ、倉間、今日は俺のお願い拒否するんだ」
「うっ」



ああそうだった。これ一応南沢さんのお願い(命令やら強制も含んでる、絶対)だった。南沢さんは綺麗な笑顔を浮かべ続けている。逆に怖い。
思った瞬間、笑みがニコリと重ねられた。
あれ、あれ?



「何だよ、もう忘れちゃったわけ?俺のお願いは絶対だろ?」



ニコリニコリ。
暫くポカンとして、もう一度有無を言わせないみたいに抱き締められたとき、俺の心臓が爆ぜた。あれ、あれ、ひょっとして、悪い笑顔より、こっちのが、効果、あった、り?




「もういい、拒否しないから、俺の負けでいいですからもう笑わないでください惚れる」
「おー」
「ああもう…お願い聞きますから、ホント、もう…」
「よーしよーし、俺の倉間はいい子だな」



完敗の俺は力無く南沢さんに身を委ねると、南沢さんはやたら甘ったるく可愛いだなんて言ってのけた。
心臓がメルトダウンしそう。誰か助けて、このままじゃ絆し尽くされる。
もうがむしゃらになってきて軽い仕返しに南沢さんの手の甲に乱暴に唇を付けると、南沢さんがいい子いい子と頭を撫でてきた。
やっぱり、このままでもいい、かも、しれない。













何処まで尽くせるかゲーム

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