俺がキャプテンの後ろにいても真っ正面にいても、きっとあんたには分からないだろう。俺がそこにいると、誰かがそこにいるということすら分からないんだろう。そうさせた神様とやらは残酷だ。
けどその感情のベクトルはきっとそこに向けられるべきじゃない。そんなこと分かってる。分かってる『んです。』
「…すまない」
「キャプテンに非はありません。誰にも、非はありませんよ」
病室特有の消毒液の匂いが、皮肉にもよく匂った。上体を起こした状態でキャプテンは悲しそうにして床に伏していた。きっと目元に何も無かったなら泣いていたかもしれない。今となっては無理だが。
「調子は、どうですか」
「ああ、相変わらず何も見えない」
キャプテンが背中を丸めてたどたどしく目元を覆う包帯をさする。包帯の所為で見えないわけじゃない。根本的に目が機能しないのだ。キャプテンの、あの涙に濡れるチョコレート色の瞳も見れない。
もう俺達の視線は合わさることはない。
2012.03.25 (Sun) 14:10
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