パラパラカラカラ。
小さくて軽いその音は、別に不愉快なわけじゃない。其処にあるだけで不愉快になるものなんて俺にはそうそう無い。
しかしそれとこれとは話が別だ。

「狩屋」

返事の代わりに背中に小さい痛みが走る。それから何か小さいものが落下する。パラパラ。
放っておくと、またそれの繰り返しだからここら辺で注意しなくちゃならない。全くコイツは何時までも餓鬼だ。

「金平糖なんか投げつけるな、痛いし勿体無いだろうが」
「えー」
「えーじゃねえよ、痛い」
「痛いなら良かったあ」
「俺別にマゾとかじゃねえから」
「知ってますよぉ?」
「マジ床に散らばってるから止めろよ」
「俺が後で拾えばいいだろ」
「いやいやいや、そう言って投げるなよ」
「じゃ、これで最後にしますよ」

嫌な予感がした。背後から立ち上がったような足音がして、せーのと声を発した。
駄目だ嫌な予感しかしない。
バラバラと空中で金平糖が散らばる音がして、まあ放り投げられた物の摂理に従って雨のように部屋中に降り注いだ。ほら見ろ。
俺は文庫本に栞を挟んで後ろに振り向くと、狩屋が珍しく悪意のない笑顔をしていた。俺の目が丸くなる丸くなる。

「星が降るって、こんな感じですかね」

星は降らない、とは言わなかった。何となく狩屋が寂しげに見えたからか、また別の理由か。よくは分からない。偶にはそういう幻想に付き合ってやっても良いかもしれない、とか思ったのだろうか。珍しく。
俺は狩屋の髪に掛かった金平糖を丁寧に払う。

「頭に星付いてる」
「何等星ですか?」
「ん、アンタレスとかが付いてるな」

ピンクの金平糖をアンタレスと比喩した。狩屋はまだ悪意のない年相応の笑顔で楽しそうに笑っている。
偶にはこんな遊びに付き合ってやるのも良いかもしれない。

狩屋の水色の髪から、また星が散る。




2012.03.24 (Sat) 14:08


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