雨宮が怖いと、言うようになった。
「怖い」
その言葉に何が孕んでいるとも感じず、ただただ口から零れた『言葉』という形を成せただけの微弱なこいつの音色だと。気付いた。怖いと言うくせに雨宮は恐れていなかった。
形だけの音色。
「ねえ白竜、怖い」
「嘘を吐け」
「ねえ本当だよ、怖い、怖いんだ、怖い…」
「……」
こいつはそういう意味で強い。いかれた強さ。
恐怖など感じられぬその小綺麗な顔。作り物のように恐れる空っぽな、
「怖くない、どうせお前は死なないのだからな」
「…ホント?」
「そうだ、お前はそんな簡単にくたばらないさ」
こいつは笑顔になるときだけ人間に戻ってくる。弱々しい人間に還る。
それだけ、堪らなく好きであったりする。
口惜しいことに。
2013.03.04 (Mon) 10:58
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