「お前は幸せになんかなれないよ」

確信めいたように霧野先輩は言った。やけに冷めた目で。まるで無理矢理熱を冷ましたような冷めた目で。
俺はキョトンとした。だって訳が分からない。

「どうしてそんなこと言うんですか?」
「お前俺が好きなんだろ?」

はい。
俺は特に躊躇もせず表情も変えずに即答した。答えたけどこれに何か意味があるのかな。見ると霧野先輩は笑みを浮かべていた。やけに嬉しそうだ。奇麗だ。

「だったら、尚更お前は幸せになれないよ」
「…えーっと、霧野先輩が俺を嫌ってるからですか?」
「いいや、いいやいいや、違う、違うよ松風」

嗚呼この人どうしてまた奇麗に笑うのかな。俺はただ霧野先輩の返事を待った。霧野先輩の唇が意地悪く歪んだ。

「一方通行な恋愛は苦しいだけだからな」

自分の好きな人には好きな人がいる。そんな恋は苦しいし続きやしない。霧野先輩の言い分はこうだった。なかなか典型的な言い分だと思う。俺は黙って聞き終えた。俺の表情は変わらず変わらず平行線を引いていた。

「霧野先輩は俺を幸せにしたくないからそんなこと言うんですね。もっと正しく言うと、俺に苦しい恋をさせたくてこんなこと言うんですね」
「うん?」
「意外と霧野先輩って分かりやすいんですね、新発見です」

俺達両想いなんですよね。でも先輩はこれで完結させたくなくてこんなこと言うんですね。自分を想って苦しい思いをさせたいだけなんですよね。

霧野先輩は驚いたように見開いて、静かに両手を挙げて降参と呟いた。そこは御名答とか言うところなんじゃないかなあ。














霧天の日ということでSSだけど書いてみました。
またちゃんと書いてみたいです。




2012.03.08 (Thu) 13:45


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