「落ち着け」
そう言われてしまった俺の脳は真っ白になった。何も出てこなくなって、何も分からなくなった。
隅に何か冷たいものを感じながらふと視線を下げれば人が、俺の下敷きになっている。俺が馬乗りになっているようだが、如何にせん名前が出てこない。誰だろうか、『コイツ』。
「エイナム、私を見ろ」
力無く首を動かしてレイザを見つけようと目を動かして、泳いで、見つける。冷静沈着な彼女の目の色が泣きそうである。誰の所為で、そんな顔を
「レイザ…」
「エイナム、ソイツに構っていてもお前にもアルファ様にも利益はないぞ」
「…だが」
「私が嘘を言っているように見えるか」
見えない。そんな彼女に俺は会ったことさえない。泣きそうである。レイザに涙そのものは無くとも。
するりと奴は怯えたように無様に逃げていく。雲雀か、ナイチンゲールか。
「レイザ、泣くのか」
「私は、泣けない」
「泣きそうだ」
「…お前の、所為だ」
「!」
彼女は俺の肩を小さく掴んだまま、お前がそうやって人を傷付けるのは嫌なんだ…と小さく小さく言った。
私の、俺の目から冷たいものが落ちる。嗚呼愚か者め。
我が家のエイナム君は普段は「私」なんだけどキレたりレイザやアルファの前では「俺」
レイザは涙を流せない
2012.10.29 (Mon) 13:21
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