「おいし?」
「…ん、」
「良かった!いやあ卵料理って難しいからさー心配だったんだよねー」

柄にもなく絆された。絆されてる。コイツと、コイツの飯に。
父親は現在単身赴任で母親は仕事人間で殆ど家に身を置くことはない。だからってそれに不満があるわけではないけれど、何処となく寂しいと思えてしまうわけで、凄く悔しいが天馬にはそれがよく見えたわけだ。
俺の話を聞きながらご飯は?どうしてるの?って聞かれて、素直にこだわらないだのあまり取らないだのと言ったのを恨んでやりたいのか誉めてやりたいのか。勿論そんなことを聞いた天馬が放っておく筈もない。
そうして松風天馬は殆ど毎日俺のところへ泊まりきて飯を作るようになった。
途端に俺は食事を規則正しく取るようになった。というのも天馬の飯が、その、美味いのだ。とても。今咀嚼している天津飯(そもそも一般家庭のキッチンで天津飯を作る奴なんて初めて見た)も形容する言葉さえ陳腐なくらい美味い。

「あはっ皆剣城のことポーカーフェイスなんて言うけどさ、今凄く美味しいって顔してるよね」
「は」
「…あ、デザートにピーチパイ焼いたんだけど食べるでしょ?」
「え、……ああ…。」
「だよねっちょっと待ってて」

桃好きだもんねーなんて言いながらキッチンに向かってしまう天馬を、俺は見送ることしか出来なかった。

(…認めたくねえ)

体の内部を掴まれて心も掴まれて、すっかりペースを乱されている。
なんて俺らしくもない。でも反抗する気も起きないし(行為自体は有り難いことだし)、美味いという口は閉じない。
つまりどんどん絆されてる俺だった。














天京の日のお祝いSS

ホントは短編のつもりだったんだけど…こちらに…うん。




2012.08.10 (Fri) 15:16


prevnext






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -