6話(夜凪)

ルナ様の元を離れ、クイエートの部屋へと戻る。
そうしたら、ミズホは何故か部屋の外で落ち込んでいた。

「ミズホ、どうした?なんで外にいるんだ。」
「…兄さん。実は…。」

クイエートが、一人でどこかに行ってしまったこと、暫くして帰ってきたはいいが、酷く落ち込んでいて、ベッドに篭ってしまったこと、自分は何も出来なかったことを、ミズホは悲しそうに告げた。

「ごめんなさい、兄さん…。」
「いい、気にするな。王子の事は俺に任せて、ミズホはルナ様の元に行ってくれ。」
「でも…。」
「いいから。今ルナ様一人なんだ。行って、守ってくれ。」
「…ん、わかった。頼むよ、兄さん。」
「ああ、任せとけ。」

そう言って頭を撫でると、ミズホは少し安心したように笑い、ルナ様の元へと行った。

「…さて、俺は自分の仕事をしましょうか。」

ドアを叩き、呼びかけてみる。

「王子、レンヤです。」

返事はなかった。
寝ているのかもしれない。

「入りますよ。」

中に入ると、電気はついていないし、カーテンも閉めてあり、暗かった。
ベッドの方に近付く。
クイエートは布団を被ってしまっていた。

「…王子、こんな時間に寝てしまっては身体に良くないですよ。」

ピクリ、と少し動く。
だが、顔を出そうとはしなかった。

「…クイエート。」

名前を呼ぶと、身じろぎはするものの、やはり出ようとはしなかった。

「…全く。」

やむを得ず、俺は布団をはがす。

「…クイエート?」

彼は泣いていた。
身体を丸めて。

「…どうなさったんですか?」

涙を拭ってあげながら、優しく聞く。

「…レンヤぁ…!」

そうしたら、抱き着いてきた。
涙は止まらないようで、嗚咽が聞こえる。
落ち着くように背中を優しく叩く。
しばらくして、少し落ち着いたのか、自分から離れ、顔を赤くさせる。

「す、すまない…。」
「いえ。…それで、どうかなさったのですか?」
「…別に、大したことではないんだ。」
「大したことではないなら、何故泣いていたのですか?」
「…それ、は、えっと…。」

目を反らし、口を閉ざす。

「…なぜ、貴方は言って下さらないのですか。」
「え…?」
「私は、貴方の力になりたいのに…。」

悔しい。
泣いているのに、俺は涙を拭う事しか出来ない。
支える事は出来ないのだ。

「…レンヤ、すまない。ただ、嫌な事があっただけなんだ。…だから、そんな、辛そうな顔、しないでくれ。」

困ったような顔で、俺の頬に手を添える。
そんな顔、していたのか。
…情けない。

「申し訳ございません。…私は、貴方の力になりたいのです。辛い事があったなら、その辛さ分けてほしい…。」

自分勝手なのはわかっている。
それでも、俺はクイエートが好きだから…。

「レンヤ…ありがとう。」

なぜだか、貴方は微笑んだ。
俺は我が儘を言っただけなのに…。

「話すから、聞いてくれるか?」
「…はい、もちろん。」

そうして、クイエートは全てを話してくれた。
俺が離れた後、王の元へ言ったこと、結婚を延ばすよう申し出たが、相手にされなかったこと、ルナ様を盾にとられたことなど、全部。

「…ごめん、レンヤ。僕は…。」
「いいんです。貴方は、頑張りました。」
「…っ!」

悲しそうな顔で言うから、背中を優しく撫でながらそう言うと、クイエートは抱きしめる力を強めた。

「………。」

さて、どうしようか。
ルナ様はいいと言っていたが、このままだとルナ様は恐らく良くない所へ嫁がされてしまうだろう。


そしたらクイエートは悲しむだろう。
それは、避けたいな。
…俺もルナ様には幸せになってほしい。
…それならいっそ、一緒に逃げてしまおうか?
リスクは高くなるだろう。
だが、逃げ切れる自信はある。
…クイエートは、どう思うのだろうか。
やはり、無謀なことだと嫌がるのだろうか。
それとも、喜んで一緒に逃げてくれるだろうか。
…いや、クイエートのことだ。
きっと、混乱して困ってしまうだろう。
だが、行動しなければ何も変わらない。

「…レンヤ…?」

考え込んでしまった為か、クイエートは心配そうにこちらを見ていた。
…聞いてしまおうか。

「クイエート、聞いて下さい。」
「なんだ?」
「…私と共に、逃げませんか?」
「え…?」
「ここにいても、貴方は辛い思いをするだけです。だから、ここではない遠くへ、行きませんか?」
「…でも、私がいなくなったら大騒ぎになるのは、目に見えているぞ。それに、ルナが何をされるか…。」
「大騒ぎになろうと関係ありません。勝手に騒がせておけばいい。…ルナ様は、私たちと共に逃げることだって出来る。もちろんその時はミズホも共に、四人で逃げましょう。」
「………。」

「返事は、今でなくても構いません。ゆっくり、考えて下さい。…どんな答えでも、私は貴方と共にいますから。」
「…うん。」

クイエートの答えはわからない。
…だが、どんな答えでも俺は、いつまでもクイエートと共にいる。
俺の命は、クイエートの為だけにあるのだから。



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