3話(loto)

「おはよーございますっ!朝ですよ!起きてください!」

明るく元気な声と彼女がカーテンを開けた窓から降り注ぐ朝日に目が覚める。
夜更かしをしすぎた体はまだ睡眠を欲してはいたが、それを無視するのも昔からの日課だった。

「朝から元気だな、ミズホ。」

いつも元気な付き人のミズホは暗くなりがちな僕の心を引き上げてくれる。
ミズホにはいつも元気をわけてもらっているようだった。

部屋の中を見渡す。
甘いいい香りとともに目的のものはすぐに見つかった。

「おはようございます。」

「おはよう、レンヤ」

挨拶と共に現れたレンヤの手には暖かいポットと朝食があった。
ベッドの傍の机に置きポットの湯で紅茶を淹れる、そんなレンヤの姿を見るのが好きだった。
机に移るとすぐに手渡された紅茶はとても良い香りがし、味ももちろん良い。
何よりレンヤが淹れてくれたということが大事だった。

「クイエート様!紅茶ばかりじゃなくて、ちゃんと食べてください!」

紅茶を飲んでるとミズホから注意が飛んでくる。
そして、それが僕の朝食をレンヤが用意する理由、だった。

「すまない、食べるよ。」

焼きたてのスコーンに甘いクロテッドクリームを付けて食べる。
あまり食欲の出ない僕でも食べられるくらい美味しい。
スコーンも普通より少し小さめで、クリームの甘さもしつこくはない。
朝食をレンヤが作るのは、あまりにも僕が食事を取らないことを心配し、僕の好きな物を作ったのが始まりだった。
その時食べたスコーンはそれまで食べたどんな食事より美味しくて、幸せな味がした。
それを一度味わってしまい、他を食べたいとは思わなくなってしまった僕は、今もレンヤに作ってもらっている。

「王子?手が止まっていますが、どうしましたか?」

ハッと我に返る。
思考の海に少し深く入りすぎていたようだ。
昨日も心配させてしまったというのに、つい深みに嵌まってしまう。

「美味しくて、な。どうやったらこんなに美味しく作れるのか考えていた。」

そう答えた私に苦笑するレンヤ。
でも、なんとなく私は答えを知っている気がする。
それは多分正解なのだろうなと思いながら、もうひとつスコーンを口に入れた。
スコーンとクリームの優しい甘さが口に広がる。
それは今でも変わらずに僕を幸せにする味だった。






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