2話(夜凪)

「ふぅ…。」

王子がやっと眠りに入っる。
彼の睡眠時間は、いつも少ないために、夜は遅くまで起きている。
それはきっと、彼の忌ま忌ましい過去の記憶のせいだろう。

「こうやって見ると、ただの子供なのにな…。」

頭を撫でると身じろぐクイエート。
起きる事はなかった。
誰が彼をこんな風にした?
そんなのは分かりきっている。
この国だ。
利益しか考えていないこの国が、彼を苦しめている。
扱いは酷いくせに、手放そうとしない。
だから俺は、この国が大っ嫌いだ。
まあこの国が嫌いな理由は、他にもあるが。
では何故今此処にいるのか?
そんなことは決まっている。

「…なぜ、貴方ばかり辛い思いをするんでしょうね。」

彼を護るため、俺はここにいる。
だが、俺は彼を護りきれているのだろうか?
外敵からは、完璧に護りきれている自信はある。
だが、内面はどうだ?
今日だって辛そうだった。
声をかけなかったら、今にも消えてしまいそうな雰囲気を纏っていた。
大丈夫かと聞いたら、苦笑いで「大丈夫」だという。
本当は辛くて辛くて仕方がないはずなのに。
言ってさえくれれば、いつでも受け止める。
でも貴方は何も言わず、ごまかすかのようにただ笑った。
何故?
俺はそんなに頼りないんですか?

「ねぇ、答えて下さいよ。」

返事は勿論返ってはこない。
貴方はどうしたら素直になってくれますか。
この、鳥籠のような場所から出れたら、もっと笑ってくれますか。
もっと幸せになってくれますか。
そうならば、俺は。

「たとえどんなに困難な事でも、貴方とともに此処から離れるというのに。」

確かに此処から逃げ出すなんて無謀かもしれない。
それでも、貴方には自由になってほしいから。
全て、可能にしてみせる。

「…準備、し始めとくか。」

いつ、貴方が此処から出たいと言っても大丈夫なように。
これでも伝手は多い方であるから、とりあえず出来る限り色んなところに連絡をしといて、確実に出国する方法を確保しておく。
そしていかに見つからずに、平穏に暮らせるようにするにはどうすればよいかも考える。
やるからには、全て完璧にしたい。
でも、もし二人で逃げ出した場合、気掛かりが一つ出来る。
きっとクイエートも同じ事を思うはず。
彼が俺以外で誰よりも信頼し、愛してる妹君、ルナ様のこと。
クイエートがいなくなる事によって、様々なことを強要させられるのではないか。
クイエートのように自由を奪われてしまうのではないか。
俺も彼女には好意を抱き、妹のように可愛がってきた分、心配になる。
でもやはりクイエートには自由になって欲しいし…。

「難しい、な。」

明日、ルナ様に聞いてみようか。
ミズホでもいいかもしれない。
とりあえず試行錯誤して、最善策を考えよう。

全ては、俺のたった一人の大切な愛しい王子様のために。







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