1話(loto)

窓の外を眺める。
夜の帷が降りた空は星もなく暗い。
今の時間、灯りを着けている家もなく、街も闇に包まれていた。

(まるで今の私の心のようだ。)

窓を開ければ、冷たい空気に包まれる。
息を吐けば白く染まった。
窓から身を乗りだし、空を見つめる。
今なら飛べそうな気がした。

「戻りましょう、お身体に触ります。」

ふいに肩が暖かくなる。
私の騎士を務めるレンヤがブランケットをかけてくれたのだった。

「眠れませんか?」

心配そうに聞いてくる。
レンヤに見つかれば、心配をかけることはわかっていたのに。

「いや、ただ考え事をしていた。」

そう、この鳥籠から逃げる術を。
街のものからはきらびやかで憧れであろうこの城も私にとっては鳥籠に等しい。
第一王位継承者の立場である私には尚更、自由がなかった。
それどころか、私が王位を継ぐのを嫌がる大臣達はもとより、父上や母上でさえ気を許せなかった。
今、この城で気を許せるのは、妹のルナ、付き人のミズホ、そして私の騎士であるレンヤ。
何千人もの人が暮らすこの城で信用できる人の数が片手で足りるとは、自分でも笑えてしまう。
でも、それは仕方のないことでもあった。
食事に毒が盛られるのは日常で、事故に見せかけた殺人未遂も何度もあった。
その度にレンヤには助けてもらっている。
ほとんど敵しかいないこの鳥籠で、レンヤは私が唯一信頼をおく騎士。
その騎士を愛してしまうのには時間はかからなかった。
しかし、主従関係にある私達は、例えどれだけ愛し合っていても一緒にはなれない。
それがすごく悔しかった。
この鳥籠から逃れられはしないとわかっていても、逃れる術を探してしまうほどに。

「王子?大丈夫ですか?」

声をかけられ顔を上げると、レンヤの心配そうな顔が私を覗き込んでいた。
この暗闇でも細部がわかるほどに近いレンヤの顔に頬が上気するのがわかった。

「大丈夫だ。すまない、心配をかけた。」

謝っても心配そうな顔から戻らないレンヤに苦笑が零れる。
心配してもらえるのが嬉しくてたまらないなど、レンヤは知らないだろう。

「顔色がお悪いですよ。考え事は明日にして、ベッドに戻って休んでください。」

レンヤに連れられベッドに戻る。
布団は適度な温度に暖められていた。
冷えた体にぬくもりが優しかった。



[ 1/13 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -