9話(loto)
ーーまったく、あなたって人は。すぐにどこかに行ってしまうんですから。
どこか懐かしい声がした。
「う…」
冷たい石の固い感触に自分のおかれている状態を思い出した。
唯一ある明かり取りの窓からこぼれる日差しで、さほど時間は経っていないらしいことが伺える。
ゆっくりと上半身を起こす。
まだ、薬の抜けていない身体はそれだけでも息があがる。
「おや、起きましたか。」
牢の鉄格子の向こうにいたのは王の側近だった。
冷たい目で見下ろされる。
「あなたには遠く、そうですね、留学か何かに行ってもらったことにしましょう。」
目と同じく声も冷たい。
温かいものはここにはなかった。
レンヤのもつ温もりが欲しい。
レンヤなら探して見つけてくれるはず。
「…レンヤ」
「レンヤなら来ませんよ。それどころか喜んでいるのではないでしょうか。」
僕がつぶやいたレンヤの名前を聞き逃さず、口を挟む。
けど、僕がいなくてレンヤが喜ぶかもしれないってどういうこと?
「あの者は王族を憎んでいる。貴方に仕えているのも機会を窺っているからだ。面倒な王子の世話など嫌だろうよ。」
嫌?
レンヤが僕のことを?
黙ってしまった僕を見て、側近は満足そうに笑う。
そして、そのまま去って行ってしまった。
「ははっ…」
側近が見えなくなり、耐えていた笑いがこぼれる。
レンヤが僕のこと消えて欲しいと思っているはずがない。
レンヤが望んでいるなら、僕を消すチャンスは手を汚さずともいくらでもあった。
世話を面倒だと思うなら、僕の我がままに付き合って来なかっただろう。
何よりレンヤは、僕のこと愛してくれてるのだから。
信じてる。
愛してるレンヤを。
だからレンヤ、早く来て。
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