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夏本番(涼野、吹雪兄弟、鬼道)

■夏祭りへ(涼野)
暑さも最盛期、各地で行われる夏祭りに誰もが心弾む頃。

おひさま園でも例外でなく、ここ最近はその話題で持ちきりだ。特に幼い弟・妹分はそうだった。



「私、この結び方が良い〜!怜奈おねぇちゃんと一緒〜」
「名前おねぇちゃん〜、早く早く〜」
「次はあたしの番だよー!」
「は〜い、ちょっと待ってね〜。お祭り始まるまでには皆終わるからね」



浴衣の柄ならいざ知らず、最近の女子は帯の結び方までこだわっている。
飾り結びと言ったろうか、確かに華やかではあるがあまり男には分からない世界だ…と思う。

晴矢の様に『マセガキ』などと言うと総攻撃を喰らうので私は敢えて口には出さない。(アイツは本当に馬鹿だ)

そんな中、手先の器用な名前は本を見ながらテキパキと色んな形の帯を完成させていく。この数日も浴衣のほつれなどを直したり、着たい奴に合わせて長さを調整していた。

名前が一工程終えた後の満足気な顔が好きで、邪魔にならない程度の所で見ていれば『気になるなら手伝ってあげなさい』と瞳子姉さんに言われたが…こういうのは適材適所だと思って手は出さなかった。
…決して私が不器用だとか、そう言う訳ではない。決して。



***



数時間後、祭りへあらかた皆が出払った後に着付けした部屋を訪れると名前がころんと横になっていた。



「…生きているか」
「あれ…ふーちゃん…。生きてるよ〜。でも帯くくったり浴衣着せ過ぎて私の指はもう死んでいる〜」



某漫画のセリフを真似て返す名前の指はよく見ると微かに震えている。

そんなに力がいるものなのかと問えば『うっかり解けてはだけたりしたらその子お嫁に行けなくなっちゃうから、しっかり目に結んだ』と返ってきた。



「そういうものか…しかし災難だったな」
「いやぁ、年に一度だし…女の子は気合入るよね〜」
「名前は、行かないのか」
「ん〜…行きたいなって思ってたけど、指動かしにくいから屋台楽しめないかなぁって」



射的とかしたかったけど狙いが定まらなさそう、と少し残念そうに笑い『ふーちゃんは?』と名前が私の事を聞く。

別段行きたい訳ではなかった。

でも、本当は祭りが楽しみだったお前が諦めようとしているなら…まぁ、きっかけくらいにはなっても良い。



「…、行く…」
「おぉ〜、ふーちゃんが…。珍しい〜」
「だから、…お前も一緒に行こう。指に力が入らないなら手伝う…年に一度だろう」
「ふーちゃん…良いの?」
「嫌なら誘わない」



その場でじっと見られるのが恥ずかしくて、名前の手を取り歩き出す。



「ふーちゃんが一緒に居てくれるなら、私も浴衣着て可愛くしたら良かったなぁ…」
「…名前は浴衣なんて着なくても、かw…、かわ、いいだろう」



大事な所で噛んで恥ずかしさでいっぱいになる。格好悪過ぎる、と苦悶の表情を浮かべていると弱々しくも握る手に力が込められる。



「…ふーちゃんは、いつも格好良いね」



チラリと視線だけで見た名前は幸せそうに笑っていて、私の小さな羞恥など、どうでも良くなった。







■かき氷屋さん(吹雪ツインズ)

日々、サッカーの練習に勤しむ白恋イレブン。
北海道とは言え夏は暑い。練習をすると更に。

それでも技術上達を目指して部活に励む彼らを少しでも労ろうと、名前の用意したものは。


「はーい、かき氷屋さんですよ〜。お客様第一号は吹雪君と敦也君ね」
「俺たちの部室で店広げんなよな」
「カタイ事言わないでよ、私達の仲じゃない…部長のOKは貰ってるし〜」
「兄貴…」
「敦也、いつも名前ちゃんが手伝ってくれて助かってるでしょ?これくらいは良いじゃないか」



さすが士郎君、話が分かるなーとペンギンの形のかき氷機の取っ手をゴリゴリと動かし始める。



「飛び切り美味しいかき氷を食べて練習疲れも吹っ飛ばそうがコンセプト」
「ありがとう名前ちゃん。僕らは自分たちの為にやってるだけなのにそれを労ってくれるなんて嬉しいな」
「無理すんな兄貴。何で振る舞うもんがかき氷なんだって呆れる所だぞ、そこは」
「こういうのは気持ちなんだよアツヤ」
「自分の部が動いてねぇから暇潰しにきてるだけじゃねぇか…」
「ワタクシがサボりに来てるみたいな言い方はおよしになって頂けるかしらー」



ゴリゴリゴリ…氷が削れる音は話す間も手は止まらない。ある程度 器に氷を溜めたら、ペンギンかき氷機のお腹から取り出してシロップをかける。



「はい、まずは士郎君。最北の綿雪2018名前エディションその1でーす」
「うん、どこから突っ込めば良いのか分からないや。…でもありがとう」
「うわっ何だその薄紫!毒じゃねーかやめとけ兄貴!!」
「うっっすーーーくブルーベリーの果汁をみぞれのシロップと混ぜて士郎君をイメージしたよ。爽やかにレモン飾っとくね」
「そう言えば僕の髪色と似てるかも?名前ちゃんセンスあるね」
「そう言われると作った甲斐があるなぁ…じゃあ次は敦也君ね」



次は違う箱からガラガラと氷を入れて再びペンギンのかき氷機を回す。出てきた氷は…橙色だ。



「オイその氷、何した…」
「果汁100%オレンジジュース凍らせた。
 でもそれだけだと冷たさで甘さを感じにくそうだから、桃果汁とか蜂蜜入れてみたよ。
 …ハイ、その2お待ちです〜。勿論、敦也君のイメージで作ったよ」
「面倒くさがるならあんな長ったらしい名前にするなよ…」




今度は色味にミントを乗せたかき氷。前に出すと渋々といった感じで受け取り、氷を口に含む敦也。



「…まぁ、悪くはねぇ…。っわ、悪くねぇだけで美味いとは言ってないからな!」
「おっ、合格点頂きました〜」
「良かったね名前ちゃん」
「うん、全員にこの調子で作ってこ」
「全員にやるのかよ…」



その為に用意したんだから、当然でしょ〜と次の用意をテキパキ始める名前。赤い苺シロップやブルーハワイ、チョコシロップや練乳も鞄から覗いている。



「あれは染岡君かな?ブルーハワイは烈斗君だろうな…」
「ウエハースにマシュマロ…?白兎饅頭もあるな」
「ふふ、楽しい壮行会になりそうだね」
「腹壊さなきゃ良いけどな」
「アツヤは名前ちゃんのかき氷が皆に行き渡るのが嫌なのかな?」
「っばっ…!!ちっげぇよ!馬鹿!!」
「も〜喧嘩しなさんなよ吹雪ツインズ。私は仲良しの2人の方が好きなのに〜」
「…だって。良かったねアツヤ!」
「〜〜うるせえっ!だから違うって言ってるだろ!?」



名前が絶えずかき氷機を動かす動作音の中、それを掻き消して敦也の叫びが響き渡ったのだった…ー。






■海へ行こう(鬼道+少し春奈)


※前回拍手・水着選びの続きです。



太陽がじりじりと照り付ける夏。
雷門サッカー部は肌を焦がす灼熱の下、グラウンドでサッカーを…せずに鬼道家のプライべートジェットでハワイに来ていた。

たまには違う事もして気分転換を図ろうという試みなのだが、先日買った水着を早速着る事になろうとは名前は夢にも思っていなかった。

ついでに言うとハワイに来る事も考えてなかった。
部単位でプライベートビーチにハワイ旅行…乗っかる部も部だが、鬼道は考える事がセレブである。


ビーチサッカーをし終えると、今度はスイカ割りや遠泳など個人のやりたい事に移っている。名前はと言うとビーチパラソルの影の下、海辺で遊ぶ女性陣の代わりに救護係として待機していた。



「―――…名字」
「あっ、鬼道君。どうしたの?どこか怪我?」
「いや、円堂の割ったスイカを届けに来た」
「えっ、そんな…わざわざありがとう!じゃあ鬼道君にはドリンク渡しとくね、水分補給のお時間ですよ〜」
「あぁ、悪いな」



今年初めてのスイカだなぁなんて思いながら受け取ったそれを見ていると鬼道が楽しめているか?と聞いてくる。



「うん。楽しいよ?皆で海なんか滅多に来られないし…どうして?」
「春奈達に混ざらないのは気が乗らないからかと思ってな」
「そんな事無いよ〜。ただ、ちょっと今は海入りにくいっていうだけだよ」
「…?」
「部活で出来た擦り傷に海の塩水が沁みるの…」



サッカーしているとタックルやスライディングなどでから出に出来る傷。それが海水に当たる度にチクチクと痛むので、楽しく海辺で遊べないのだ。消毒はされていそうだが。



「そうだったのか…ホテルを貸し切ってプールにすべきだったな」
「お気持ちだけで充分です…本当に」



また壮大な計画が口からぽろっと出てきたので思わず止める。鬼道は時折冗談と本気の境目が曖昧で困ってしまう。



「気を遣わせちゃってごめんね。本当に楽しいって思ってるから、心配しないで?
…でも、傷が出来ないくらい技術があれば違うのかなって思うと何だか恥ずかしい」
「―――…何を恥じる事がある?」



キャミソールタイプから覗く腕。そこにある擦り傷に視線を落として鬼道は『名字が必死に打ち込んでる証拠だろう』と少し怒ったように言った。



「今にもっと上達するさ。名字がひたむきさを忘れなければ。
…だから卑下するのはよせ」
「…そっか。勲章なんだね、コレは。教えてくれてありがとう」
「別に、礼を言われるような事はしていない」
「私の事で怒ってくれる友達がいて私は幸せだなぁ」
「…、もうその話はいい…」
「鬼道君が照れてる」
「出しゃばった真似はするものじゃないな…」



円堂のお節介が感染ったか、と言ってスイカに口をつける鬼道。
それを見て名前もスイカの事を思い出し唇を寄せる。



「…名前さ〜ん!帰ってきました!」
「んむ〜。(ゴクン)春ちゃんお帰り。飲み物とるよ〜」



帰ってきた春奈に飲み物を渡そうと少し片手を動かすと、棒で叩かれて不格好に割れた赤い果肉がポロリと転がる。
それをみた春奈が思わずため息を漏らした。



「…は〜…、名前さん本当にスタイル良いですよね!」
「え〜?」
「だってだって!スイカの欠片も胸元で落ちずに止まってるし、ドリンク取るためにねじった腰とかすっごいセクシーです〜!やっぱりあの黒ビキニにした方が良かったんじゃ…!?」
「あの水着の事は忘れよう春ちゃん…」
「ええ〜そんな事言わないで下さい〜!ねぇお兄ちゃん、お兄ちゃんも名前さんのセクシーな恰好見たいよね!?」



もうこれはセクハラなのではないだろうか。主に、鬼道への…。

『ごめんね鬼道君。はっきり見たくないって言って、春奈ちゃんを止めてくれた良いんだよ…』と彼の言葉を待てば。

―――…視界の端に、全力で目を逸らした鬼道が見えた。


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