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夏の準備(円堂、染岡、春奈)

■制服の更衣準備(円堂)

部活が終わった後、円堂は部誌を書いている背中を見つけて声をかけた。


「お疲れー名前、まだ部誌書いてるのか?」
「円堂君。そうなの、今日は書く事いっぱいあって…
 鍵閉めとくから先に帰って大丈夫だよ〜」
「いや、まぁ…別に急ぐ用事もないし待ってる。女子1人じゃ危ないしな」
「おぉ、さすがキャプテン。言う事が男前だなぁ」
「言葉だけかぁ…」


サッカーしてる時もカッコいいよ、と笑い交じりの声が部室の中に溶ける。
輪番制の部誌は彼女の日はいつも内容が濃い。
そういえば生徒会の部活監査でもそこだけは褒められていたな、と思い出す。


「頼りになるな、…って女の子がこんなこと言われても嬉しくないか」
「ううん、そんな事無いよ。自分の思った事が皆の為になるなら、とっても嬉しい」
「そっか!」


うちのDFは相手からゴール守るだけじゃなく、
生徒会の監査から部を守ってくれるんだぜ、と何だか得意気な気持ちになる。
そんな名前を待つ為、部活後の熱が籠る学ランを脱ぎシャツになって椅子に座った。


***


「(そういや女子は半袖涼しくて良いなぁ…学ラン暑い…、
 半袖着て良いのいつからだっけ…)」


ぼんやりと小さくも頼れる背中越しに部誌を書き上げていく姿を見ていると、
円堂はある違和感を感じて問いかける。


「…なぁ。何かお前、ゴツくなった?練習中より」
「え〜?そんな一瞬で強化できるぐらいだったら、もうとっくにしてるよ…。
 でもどうして?」
「何かこう…肩がガッチリしているような…」
「肩…??あぁ、なるほどね!制服のせいじゃないかな?」
「制服?」


ベストを着ているので分かりづらいが、半袖の制服は良く見てみると
他の女生徒とは襟元と肩のカットが直線的な気が…する。


「近所のお兄さんが雷門出身でね。
 そのお母さんが良かったらって何枚か制服くれたんだよ。

 部活のユニフォームは柔らかい布地だから本当の肩のラインが見えて、
 余計そう思うんじゃないかな」

「なるほど…全然気づかなかった…」

「ベストとか着てるからね。本当は女子制服買わないといけないんだけど…

 まぁ、金銭的に余分を買うのが辛いというか…ズルしてるから
 円堂君と私だけの秘密にして欲しいな」
「おう、分かった!」


任せろ!と屈託なく返すとホッとしたような名前の笑顔が浮かぶ。
ありがとうという言葉と共に、『あ、そうだ』と声が続く。


「ちなみに、もう更衣期間始まってるから長袖シャツ着なくても良いんだよ円堂君」
「えっ!」
「部活ではジャージだし、まだ男の子は学ラン、女の子はカーディガンとか着てるから
 分かりにくいよね。もう皆、半袖の制服きてるよ??」


ずっと暑そうだなって思ってた、と言った彼女は丁度、
部誌を書き上げたらしくパタンとそれを閉じる。


「そして明日から更衣期間終わって半袖で登校しなきゃいけないんだよ」
「マジかぁ…じゃあ暑い思いしてたの俺だけ?恥ずかしいな…」
「あはは、円堂君らしいなぁ」


じゃあこれも2人だけの内緒話にしよう、と名前が笑うと
また顔の熱が上がった気がした円堂だった…―――。




■エアコン掃除(染岡)


梅雨の中休みで快晴となったとある日。
ノートを忘れた染岡は部室に向かっていた。


「(あっちぃ…来るんじゃなかった…。
でもノートがないと提出する分が進まねぇしな…)」


昨日、部活帰りに広げたノートをうっかりロッカーに入れたままにしてしまったのだ。
期末テストも近い。円堂ほど酷くはないが、油断も出来ないので仕方なく取りに来た。


「…?」


掘っ建て小屋に近いサッカー部の部室。その扉は空いている。誰かいるのか?盗む価値のあるものはないとはいえ、まさか泥棒?

怪しく思いそっと覗くと、そこには見覚えのある後ろ姿。
名前が椅子を二段に重ね、エアコンに手を伸ばしていた。


「…お前、何やってんだ」
「ひゃっ!?」
「おわっ!?危ねぇ!!」


ぐらりと椅子から細い体が傾く。部活で鍛えられた反射神経で抱きとめると『あは、染岡君ナイスキャッチ!ありがとう』と呑気な声が返ってきた。


「俺がいなかったらどうする気だったんだ!?頭打って死ぬぞ馬鹿!」
「いやーびっくりしちゃってさぁ…今日、部活休みだったから
 誰かが来るとか思わなくて」
「急に声かけた俺にも非がねぇ事はねぇが、椅子重ねるとか無茶だろ。
 っつーか何してたんだ名前は」
「エアコン掃除。もう夏になっちゃうからね」


なるほど、フィルターを外したかったが背が足りなかったという事か。確かに暑さが本格的になる前に使えるようにしておかないと、この部室は夏場は死人が出そうだ。


「…いや待て?女子は着替えに使わねぇだろこの部室」
「えー?染岡君たち暑くない??」
「そりゃそうだが…」
「別に自分が使わなくても、友達が気持ち良く使えるならそれでいっかなって」
「…ったく。円堂と言い、お前と言い…この部はお人良しばっかりかよ」


どけ、と自分の体を割り入れて染岡はエアコンのカバーを開ける。フィルターはしばらく使っていなかったせいか埃がこびり付いていた。


「…マジで使えんのかよコレ…」
「えっ、手伝ってくれるの?」
「使わねぇ奴が掃除するって言ってんのに、使う人間がやらねーでどうすんだ」
「…、そっかぁ。ありがとう!ふふっ」
「何だよ、何かおかしー事言ったか?」
「いやぁ…染岡君も大概、お人良しだよねって思って!」
「!」


雷門のサッカー部は良い人ばっかりだね!とはしゃぐ名前を前に、染岡は「…うっせ、早く終わらせんぞ」と頬を赤らめたのだった…―――。




■水着選び(春奈)

「わぁ〜っ!見て下さい名前さんっ
 可愛い水着がいっぱいですよ!」
「ホントだね。どれもカラフルで夏って感じ」
「よォ〜し!名前さん、早速選びましょう!
 あっそうだ!選びあいっこするのはどうですか!?」
「楽しそうだね」


激しいサッカー部の練習後。春奈と来たのは一番近いショッピングモール。
他愛ない話の中、夏だし海かプールへ行こう!という事になったものの、
水着がない事に気付いて買いに来た。



「でも、ごめんね春ちゃん。練習の後に疲れてるのに付き合わせて…」
「良いんですよぅ!私が好きで付いて来てるんですから!
 大体、名前さんが一人で選んだら普通の水着にしちゃうじゃないですか!!」
「(普通じゃない水着とは…??)」


彼女は一体どんな物を選ぶつもりだろう。普段は可愛い後輩だが、
正直今は不安しかない。


「さぁっ名前さん!これからはお互いに、コレ似合う!と思うのを
 探し合いますよ〜!30分後に集合です!!」
「えっ…春ちゃん、待って、せめて好み教えて…!」


そう言って風のように売り場奥へ消えた春奈を追いかけるのは至難の業だ。
そう判断して大人しく彼女に似合いそうな水着を探す事にした。


***


「名前さんっお待たせしましたぁ!私の方はバッチリですよ!!」
「そ、そう…ありがと…。えーと、…私も春ちゃんに似合いそうな
可愛い水着、頑張って探したよ。こんなのはどうかな?」


春奈に見せたのは淡い水色のオフショルダートップとミニスカートタイプのアンダー。
所々に小さなハイビスカスがあしらわれた柄が入っている。


「わぁ…!可愛い!ありがとうございます〜!コレは買いですね!!」
「喜んでくれて良かった〜」
「では、私は可愛い系を選んだ名前さんに対抗して…じゃーん!セクシー系でキメてみました〜」
「…!!?」


えっ…ひ、も…??そんな感想を持つレベルで突き付けられたのは黒のビキニ。
何と言うか、セクシー系と言うレベルを全体的に超越している気がする。
これ、下手したらおまわりさんに捕まるんじゃ…?


「名前さんはいつも爽やか清楚系なので、黒のビキニで大人の色気を狙ってみました!!
 破壊力抜群じゃないですか…!?」
「…」


水着に破壊力がどうして必要なのだろうか。誰と戦うの??

我ながら最高のチョイスと言わんばかりのキラキラした瞳を向けてくる春奈は
恐らく悪意など微塵もないのだろうが…
こんな大胆な水着を着ている所を知った顔に見られた日には羞恥で死ねる。


「…そうだね。いつも応援してくれる春ちゃんが見立ててくれただけあって、
 とても素敵な水着」
「名前さん …!そんな風に言ってくれるなんて嬉しいです!ではレジに…」
「でも、これを買うのは今じゃないね」
「えっ…!!?じゃあ、いつに買うって言うんですか…!?」


セクシー水着の名前さんを写真に収めたかったのに…!と世界が終わりそう表情で驚く春奈。
出来たら写真には写りたくない、黒歴史になりそうだ。


「やっぱり、女性らしい服は今背伸びしても着こなせないんじゃないかな?
 もう少し私が大人になったら…例えば…そう、10年後とか。
 10年経った時、春ちゃんが『似合う』って言ってくれたら買うね」


その時までに魅力的な女性になれる様に頑張る、と付け加えると
春奈は名残惜しそうな目で手に持った水着を見たが、
意を決したように『分かりました!』と元気よく返事をした。


「そうですね、名前さんの言う事も一理あります!
 今日より明日、明日より明後日…そして10年後…。
 今でも素敵なのに、大人な名前さんってどんな感じなんでしょうか…!?
 楽しみですね!!」
「…。…うん…」


もしかして私は、10年後にとんでもない時限爆弾を仕掛けてしまったのかもしれない。

何とか忘れてくれますようにと願いながら、
キャミソールとズボンタイプの水着をレジカゴにそっと入れたのだった…―――。




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