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1月拍手(土門、立向居)

■お見舞い(土門)


新学期が始まって間もなく。
後から厳しくなった寒さに負けてしまったのか
風邪で熱を出してしまった私はやむなく学校を休んだ。



「(う…頭痛い寒気する…本当辛い…。風邪引くとか本当に不覚…)」



布団に包まっていると『ピンポーン』とインターホンが鳴る。
身動き取るのも億劫だが仕方なく通話をオンにしてやって来たのが誰かを確認する。



『は〜い…』
「やっほー名前ちゃ〜ん。土門で〜す☆
 風邪引いたって来たからお見舞いに来たんだけど〜」



プチっ
思わずインターホンの通話を切る。

土門君には罪はないが疲れている時に明るいトーンは毒でしかない。
風邪症状辛すぎるからって部活の連絡網に送ったよね…?



「あっちょっと!インターホン切らないで!!?」



ピンポーン!ピンポーン!!と連打してくる土門君。
頭に響くから止めて欲しい…っていうか近所迷惑になるから!



『…煩いよ土門君…』
「せっかく来たのにいきなり切るなんて酷いじゃないの〜」
『普通に発熱してるから誰かを構う余裕がないの…。
 大体、感染ったら困るから来ないでって連絡したのに…早く帰って』
「そうは言っても心配するでしょうよ」



いつもなら何か面白い事言おうかなって思うけど今日ばかりはマジレスしか出来ない。
だってしんどいからね…。心配してもらえるのはありがたいけど。

けれど土門君は引き下がらない。
一体どうしたの…いつもの切り替えの速さはどこへ行ったの…?




「…ほら、喉酷いのに話すの辛いでしょ。家入れて〜。
 何か食べるかと思ってちょっと食材とか名前ちゃんの好きな店のプリン買ってきたからさ」
『分かった…食材とプリンだけ置いて帰って』
「そりゃちょっとゲンキン過ぎない!?」
『感染るって言ってるでしょ…』
「俺は 元気だからちょこっと会うくらい大丈夫だってぇ〜。
 親御さん出払ってるんだろ?看病ならこの土門にお任せあれ!」
『…』




上辺だけじゃなく本気で心配してくれているのが伝わってきて、
締め出している事にちょっと罪悪感が芽生えてきてしまった。

折れて会ったら土門君に感染るかも知れない。
でもこのまま会わないとずっと寒い外で粘られそう。

それで風邪引いたらどっちにしたって私のせいなんだろうな…。




『−−−…はぁ…、マスクして出るからちょっと待って…』
「は〜い」



家で箱ごと買ったマスクを顔に引っ掛け、ガチャ…と力なくドアを開ける。




「…はい、コレ土門君の分のマスク。
 これで私が治って部活出た時、土門君が風邪で倒れてたりしたら怒るからね」
「はいはいっと。そんじゃお邪魔しま〜す!
 なぁもうメシ食った?何か食べたいものある?」
「いいからプリン食べてお茶だけ飲んだら帰って…」
「つれないねぇ」



こんなに心配してるのに〜と泣き真似のジェスチャーをされたが
突っ込む気力もなくフラフラして家に上げる。




「おぉ、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないってずっと言ってるんですけど…」
「ゴメンゴメン、名前ちゃんの部屋…は流石にお邪魔できないから
 リビング行こうな。ソファーか何かあるだろ、そこで寝よ!」
「…そーね…」




そういって肩を貸してくれる土門君。
身長が違うので引っ張られて辛いんだけど、もう深く突っ込まない。



「(早く元気になって部活出よ…)」



そうすればこのじゃれあいも100倍ぐらい楽しい筈だ。
いつまでも悪態付くのはカワイクないし、
土門君がお見舞いに来たくなった私にさっさと戻りたい。

心に誓って私は土門君に引きずられながらリビングへ向かった。





■カイロ(立向居)


温暖な気候の九州でも、冬はやっぱり寒い。
少しでもその冷たい気温を何とかしようと閉め切った部室に
くしゅ、とくしゃみの音が響く。

その一拍後、ピッタリ閉められた扉が開く。



「あっ、名字さん!お疲れ様です!」
「お疲れ立向居君。居残り練見てたよ、大分GKが様になって来たんじゃない?」
「そ、そうでしょうか?」



嬉しそうに、少し恥ずかしそうに立向居は笑った。
彼は元々MFだったが、今や全国に名を轟かせる雷門中のGK・円堂に魅せられ、
この度GKへ転向したのだ。




「うんうん、足より手でセービングする回数が増えたよ」
「うっ…それは…フィールドプレーヤーだった時の癖が抜けなくて。
 とっさに足で取っちゃうんですよね…」
「ハンド取られるもんね、分かる」
「でも、GK楽しいです」




それも見ていたら分かる。
目標めがけて精一杯努力するのはさぞ充実している事だろう。
グラウンドの土で汚れているはずの立向居の顔はキラキラしている。




「…暖房点ける?もう帰る?」
「あ、俺部誌置きに来ただけなのですぐに帰ります…
 っていうか名字さん、点けてなかったんですか?!」
「まぁ一人だったし、もう帰ろうかなって思ってたからね」
「もー、駄目ですよ、風邪引いちゃいますよ?さっきもくしゃみしてたじゃないですか」
「立向居君、聞かなかったフリというのが出来ないのかね…まぁまぁ恥ずかしいんだけど…」
「すっすみません!」
「まぁいいや帰ろう」



明日も朝練からスタートだ。帰って冷えた体を温めるのが先決というもの。

素直に従う立向居を前に、部室から出る。
鍵をかけると外気で冷えた金属の感触が指先を刺した。



「ひぇー冷た…」
「大丈夫ですか?…わ、手先真っ青じゃないですか!」
「あぁ、平気平気。指先冷たくなる体質だから…これが普通」



血が通ってないんじゃないかと思わせるような指の色に立向居が慌てる。
鞄の中をごそごそと探して小さく『あっ』と声を上げた。



「名字さん!これ、登校する時にもらったので良かったらどうぞ!」
「? 何々、『10時間持続するカイロ?」
「少しでも温めた方が良いですよ。
 体質とはいえやっぱり女の子が体冷やしたら駄目です!」
「え…いや、でも悪いよ。立向居君は?」
「俺は今さっきまで運動してましたから」



大丈夫です!とカイロを袋から開け、軽く揉んで名前に寄越した。



「…ありがとう、温かい」
「え、早い。カイロもう発熱し出しました?」
「(立向居君の気持が、って話だったんだけど…まぁ良いか)
 気を使ってもらってありがとう。でも立向居君が風邪引かないようにしてね」



環境が変わると良くも悪くもストレスになって体調を崩しやすい、
というのは一般的にも知られる所である。
加えてこの時期は冷え、暖房による乾燥と障害は多い。



「俺ですか?う〜ん、あんまり昔から風邪とか引いた記憶ないです」
「うん、何となく分かる…。いや、まぁ注意してって話だからね…」
「はい!インフルエンザとか流行ってますもんね!あ、でも…」
「ん?」
「名字さんがよく見ててくれるから、体調が優れなくても早く気づいて
 軽めの症状で済みそうかも…とか」



『だから、やっぱり俺達部員の為にも
 名字さんが風邪引かないようにするのが一番ですね!』と立向居は笑ったのだった。





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